交通事故におけるペットの扱い

ペットは家族同然

 現在、わが国には、ペットとして705万3000頭の犬と、883万7000頭の猫が飼育されているといわれます(一般社団法人ペットフード協会の2022年全国犬猫飼育実態調査による推計飼育頭数)。歴史的に見れば飼育頭数は減少傾向にあるそうですが、とても多い数です。もちろん、犬猫以外のペットも沢山いるため、それらも加えればさらに膨大な数になるでしょう。
 ペットを飼っている方にとって、ペットは家族の一員であり、家族と同様の愛情をもって接しているはずです。そんな愛すべきペットが、もしも交通事故に巻き込まれたら、賠償の問題はどのようになるのでしょうか?

家族同然のペット

法律上ペットは「物」

 まず、日本の私人間の法律関係を規定する民法という法律において、ペットは「動産」、すなわち「物」として扱われています。それは、この法律が、土地とその土地に定着した物以外をすべて「動産」とするという扱いをしているからです(民法86条)。かなり大雑把なくくりですよね。
 そのため、ペットも、私たちが持っている携帯電話やバッグと同じように「物」として取引されています。また、他人のペットを故意に傷つけてしまったら、器物損壊罪に問われることになります(刑法261条)。
 もっとも、ただの「物」と違う点もあります。ペットの飼い主には適切な飼育が義務付けられ、虐待等の行為は禁止されています(動物愛護法7条2項等)。

民法 第86条

1 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

刑法 第261条 

前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

動物の愛護及び管理に関する法律 第7条1項

動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。この場合において、その飼養し、又は保管する動物について第七項の基準が定められたときは、動物の飼養及び保管については、当該基準によるものとする。

交通事故における物損の扱い

 ペットが「物」だとすれば、ペットが交通事故に巻き込まれた場合、「物損」(物が壊れた場合の損害)として処理されることになります。
 例えば、交通事故によって自動車が壊れた場合、修理費用が損害として認められ、通常は相手方保険会社から賠償金の支払いがなされます。また、修理費用が消費税相当額を含む車両時価額に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には、いわゆる「経済的全損」として買替差額が損害として認められ、同様に賠償金の支払いがなされます。
 そして、物損に関連する慰謝料については、原則として認められません。例えば、被害にあった車両に対して愛着があったとしても、それが壊れてしまったことについての慰謝料を交通事故と因果関係のある損害として認めるためには、「被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要である」(東京地判平成元年3月24日交通事故民事判例集22巻2号420頁)とされています。
 これらの事例とパラレルに考えるのであれば、理論的には、ペットが怪我をした場合にはその治療費が、また残念ながらペットが亡くなってしまった場合にはその時価額がそれぞれ損害として認められる余地がありそうです。また、ペットを家族同然に扱ってきた方にとっては、「特段の事情」がある場合として慰謝料が認められる可能性があるといえます。
 以下では、実際の裁判例を参考にしながら、交通事故のペットが巻き込まれた場合の扱いについて見ていきましょう。

ペットが事故に巻き込まれたら

治療費や交通費が認めれた事例

 裁判例では、ペットの犬(ゴールデンレトリバー)が交通事故によって頭部打撲、左側胸部裂傷、消化器内損傷等の怪我をした事例で、救急動物病院で治療を受けた治療費、病院に行くための往復タクシー代、及び普段通っていた動物病院で血液検査を受けた費用を損害と認められています(大阪地判平成15年7月30日交通事故民事判例集36巻4号1008頁)。
 また、ペットの犬(ラブラドールレトリバー)が交通事故によって第二腰椎圧迫骨折の怪我を負い、後肢麻痺、排尿障害の症状が残った事例では、動物病院に入院した約20日間の治療費、入院料、車いすの制作料が損害として認められました。また、この事例では、飼い主夫婦に対して、合計40万円の慰謝料も損害として認められています(名古屋高判平成22年3月5日判例時報2079号83頁)。
 自動車の修理費、修理のためのレッカー費用及び修理のための検査費用が交通事故と因果関係のある損害として認められていることを考えれば、ペットの治療費や通院交通費や検査費用が損害として認められることは当然であると考えられます。ただし、治療費があまりに高額になる場合、どこまでそれが損害として認められるかは議論がありそうです。上記のとおり、一般的な物損の場合には、「経済的全損」という考え方があるためです。
 なお、ペットの怪我が酷く、後遺障害が残るような事例では、上記のとおり飼い主に対する慰謝料が認められています。ペットが家族同然であるとすれば、その後遺障害は「被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存する」場合といえるからでしょう。

葬儀費用と慰謝料が認められた事例

 交通事故の結果としてペットの犬が亡くなった事例では、犬の葬儀費用2万7000円の他、長い間家族同然に飼ってきたことを理由として、飼い主に慰謝料5万円を認められたものがあります(東京高判平成16年2月26日交通事故民事判例集37巻1号1頁)。
 また、生後1歳6か月の犬(パピヨン)が亡くなった事例では、当該犬が血統書付きのセラピー犬であり、その平均寿命が16年程度であることから、経済的損害として15万円、葬儀費用2万円、飼い主の慰謝料10万円が損害として認められています。
 ペットが家族同然とはいえ、法律上それが「物」であることは上記のとおりです。そのため、ペットが亡くなってしまった場合、損害として認められるのは、原則としてその物としての価値以外にありません(しかも、その物としての価値を証明するのはハードルが高そうです)。それでも、例外的に、葬儀費用や慰謝料が認められているのは、ペットの特殊な地位に鑑みた特別な措置であるといえます。
 なお、慰謝料の金額が低くて驚いた方もいるでしょう。飼い主にとっては、慰謝料数万円程度で「慰謝」されることはないはずです(例えば、人が交通事故で亡くなった場合の慰謝料は2000万円~2800万円程度とされています)。しかし、裁判所はあくまで「物損」の慰謝料として、ドライな見方をしているようです。

まとめ

 以上のとおり、交通事故にペットが巻き込まれてしまった場合、ペットが「物」として扱われ、その治療費や通院交通費が損害として認められる可能性があります。また、万が一ペットが亡くなってしまった場合には、葬儀費用や慰謝料が損害として認められる可能性があるでしょう。いずれにせよ、交通事故によって家族同然のペットが怪我をしたり、亡くなった場合、その金銭的な補償は十分なものとはいえません。ペットを自動車に載せたり、散歩させるときには、事故に巻き込まれないよう十分にご注意ください。


 ゆりの木通り法律事務所は、静岡県西部地域(浜松市、湖西市、磐田市、袋井市、掛川市等)の交通事故に関する事例を多数取り扱っております。交通事故の被害にあってしまいお困りの方は、まずは法律相談にお越しください。ご自身の自動車保険に弁護士特約が付いている方は、同特約を使って無料でご相談いただくことが可能です。お気軽にお問い合わせください。