web広告「国が認めた借金救済制度」の実体

国が認めた借金救済制度とは何か?

借金の減額制度とは何か

最近、インターネットやSNSの広告で「国が認めた借金救済制度」というフレーズをよく見かけます。仕事柄、消費者金融や信販会社の検索などをすることから、広告会社のアルゴリズムが「お金に困っている」系の広告を表示するようにさせているのでしょう。もし、私のようにこのフレーズをよく見る方がいれば、もしかして借金の返済に困っている方ではないでしょうか。そのような方にとっては、とても興味をそそられるフレーズです。普段、法律の専門家として債務整理の仕事をしている私にとっても、下記のような宣伝文句を見ると、何かとっても画期的な新制度ができたかのように期待させます。自分が知らない制度があるとすれば知っておかなければ大変!という焦りもあります。

借金返済のスゴ技! 国が認めている「減額措置」 実は多くの人が毎月損をしてます!

某司法書士事務所

リボ230万あと3か月でおしまい
2022年 救済支援策
減額申請はお早めに

某司法書士事務所

毎月の支払い・借金返済は「減額制度」の対象です 毎月3万人が救済されています

某弁護士法人

今月2.5万円以上返済をお持ちの方へ
2022年 全国返済支援
すぐに適用されます

某弁護士法人

上記のような広告を追っていくと、その殆どは「借金減額シミュレーター」なるものに誘導され、そこで個人情報を入力すると結果は電話やメールで知らせるものでした。「誰にも知られずに借金を減らせる」「230万円が3か月でおしまい」「全国返済支援 すぐに適用されます」という煽り文句はありますが、実際にどのような制度を使用するのか全く分かりません。個人情報を入力しなければ、その実態は分からない仕組みです。

実態は普通の債務整理

結論を先に述べれば、「国が認めた借金救済制度」とは、従来から存在している債務整理の方法(消滅時効援用、任意整理、自己破産、個人再生)に他なりません。また、多くの業者は、債務整理の中でも最も手間のかからない「任意整理」を想定しているようです。

新しく画期的な制度が始まったわけでもありませんし、一定の期限内に申し込みをしなければ制度の利用ができなくなるわけでもありません。広告代理店が考えた人目を引くキャッチコピーに過ぎないということです。これらの債務整理の方法は、国が禁止しているわけではなく、法律や通達などでその方法が定められているものもあるため、「国が認めた」のは確かなのですが、表現が紛らわしいですよね。

そして、注意しなければならないのは、「230万円が3か月でおしまい」「リボ300万円が50万円まで減る」などのように、返済が極端に簡易になるのは、ほんの一握りの人に過ぎないということです(例えば、消滅時効の援用で一部の借金の返済義務がなくなる場合や、過払金がある場合など)。あたりまえのことですが、広告の極端な表現を真に受けてはいけません。

「借金減額シミュレーター」についても、債権者数や債務額だけで正確な数字を出すことは不可能です。任意整理により将来利息をカットできることや、個人再生により法律に基づく債務の減額ができること、もっといえば自己破産ですべての債務の免責ができるという「あたまりまえ」のことしかシミュレーションしてくれません。顧客を獲得するための広告手段以外の何物でもないのです。

もちろん、このような広告を出しているのは、まっとうな仕事をしている司法書士法人や弁護士法人ですから、債務整理の業務じたいは普通に行われるはずです。悪徳業者であると非難するつもりはありません。しかし、これらの債務整理手続は、「借金救済制度」という言葉からイメージされるような、申請すればすぐに借金が減るといったシンプルな手続ではないのです。

皆さんそれぞれの個別具体的な事情に基づき、それぞれのメリットとデメリットがあります。手続の実体をよく調べ、どのようなメリットとデメリットがあるのかをよく理解した上で依頼をしましょう。本来であれば個人再生や自己破産が必要な人が、安易に任意整理を選択すると、数カ月後には再び弁済が困難になり、結局改めて自己破産手続をしなければいけなくなることもあります。

それぞれの債務整理手続の概要

1.消滅時効

最終弁済日から5年以上が経過している債務については、消滅時効の援用(消滅時効を理由に今後は支払いをしない旨の意思表示をすること)をすることで原則として支払義務が免除されます。何らかの都合で支払いが滞ってしまい、そのままの方は消滅時効の援用をするだけで借金問題が一気に解決します。

なお、消滅時効は援用しなければ効果が生じないため、5年以上経過した債務についても債権者からの督促は普通にあります。債権者は、自分から消滅時効の援用ができることなど助言しません。消滅時効期間が経過した後に一部でも返済してしまうと時効の中断といって消滅時効期間が同返済時から0にリセットされてしまいますので注意しましょう。

2.任意整理

任意整理とは、消費者金融や金融機関と交渉し、今ある債務額を利息を付けずに分割で返済していくという内容の契約を行うことを目指す手続です。ここでいう「任意」とは、裁判所を介さない手続という意味ですね。

クレジットカードでリボ払いを選択したものや、消費者金融で毎月定額返済をしている場合、返済額の大部分は利息になるため借金は時間を追うごとに増えていきます。そのような利息を払うことをやめ、現在ある債務額を固定して、毎月分割で元本のみを返済するという和解契約を新たに結ぶことになります。消滅時効や過払金がない限り、元本を減額することは困難です。また、10年以上もかかるような長期分割は認めてくれません。

そして、全体的な返済額は減りますが、信用情報に登録されるため(いわゆるブラックリスト)、新たにローンを組むことや、新たにクレジットカードを利用することは一定期間できなくなります。また、あくまで今ある債務を分割弁済するものですから、収入が全くない方については自己破産を検討した方がよいでしょう。

3.個人再生

個人再生手続は、今ある債務を法定の基準に従って減額し、3~5年で分割弁済する手続です。例えば、借金の総額が500万円未満なら100万円に、500万円以上1500万円未満なら5分の1にまで減額されます(所有財産がこれより多い場合には所有財産の評価額以下までは減額できません)。

個人再生手続のメリットは、住宅ローンの残っている自宅がある場合に、自宅を残しながら(住宅ローンだけを債務整理の対象外として)債務の整理ができることです。自己破産の場合には、原則として99万円を超える財産については、お金に替えて債権者に配当しなければなりませんので、自宅を残したい方は画期的な手続ですね。

4.自己破産

自己破産手続は、生活に必要な最小限の財産を除きすべて換価して債権者に配当し、すべての債務(税金や不法行為に基づく損害賠償請求権などの債務は例外)の支払い義務を免責してもらう手続です。

自宅をどうしても残したいという方には向きませんが、借金のすべてについて支払義務がなくなるため、生活再建という面では最も効果のある手続といえます。自己破産というと、どうしてもネガティブなイメージがあるかもしれませんが、官報に公告される以外は第三者に知られることはありませんし、財産のない方にとっては信用情報に登録されてしばらくの間(5~10年)ローンが組めなくなるくらいのデメリットしかありません。

まとめ

最近よく見る「国が認めた借金救済制」の実体は、どこの法律事務所でも取り扱っているような一般的な債務整理手続でした。債務の返済にお困りの方は、それぞれのご事情に応じて、適切な債務整理の方法を選びましょう。なお、ゆりの木通り法律事務所では、借金に関するご相談であれば初回相談料「無料」で承っております。お気軽にお問い合わせ下さい。