【法改正】懲戒権、嫡出推定の見直し、再婚禁止期間の廃止

どのような法律が改正されたのか

 令和4年12月10日、民法等の一部を改正する法律が成立しました。この法律は、民法における子の懲戒権に関する規定と嫡出推定等に関する規定を大幅に見直すものです。このうち、懲戒権に関するものは令和4年12月16日から施行され、その他嫡出推定制度に関するものは、令和6年4月1日から施行されています。

懲戒権に関する変更

 改正前の民法822条には、親が自分の子どもを「懲戒することができる」という規定がありました。「監護及び教育に必要な範囲」でという留保がつけられていますが、「懲らしめる」や「戒める」という言葉からは厳しいしつけを想像してしまいます。実際、昭和44年に発行された、『注釈民法』という民法の解説をする書籍には、懲戒の方法として「しかる・なぐる・ひねる・押し入れに入れる・禁食せしめるなどの適宜の手段を用いてよい」と説明されているところです。
 しかし、時代は進み、現在ではどのような理由・目的であったとしても(しつけの為であっても)、子どもに対する暴力等は「児童虐待」とされ許されません。改正前の民法822条は、児童虐待を正当化する可能性があることから、全面的に見直されることになりました。そもそも、いわゆる「しつけ」は子の「監護及び教育」に含まれるものであり、あえて「懲戒」という言葉を用いる必要がありません。改正前の民法822条は、明治31年に制定・施行された明治民法から引き継がれた条文ですが、さすがに現代の価値観とのずれが大きくなり、耐久年度を過ぎたといえます。
 改正後の民法822条は、監護及び教育は「子の利益のために」なすものとし、また親権者として「子の利益のために」監護及び教育をする義務があるとしています。

改正前民法822条
親権を行う者は、民法820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができる。

改正後民法822条
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

 なお、既に廃止されていますが、親の子に対する懲戒のひとつとして「勘当」という制度がありました。これは、戸主や親が不行跡の子の親族関係を断絶する制度です。端的にいえば、戸籍からの抹消するということですね。現在においても、「子どもを勘当したいのですが、どうしたらいいですか?」という相談を受けることがあります。「勘当」という制度が事実上廃止されたのは明治4年のことですから、未だにそのような相談があることに驚いてしまいます。「勘当」は親による子の監護及び教育の放棄であり、現代社会に馴染む制度ではありません。そのような相談には「江戸時代ならできたのですが…」と答えています。

嫡出推定などの法律改正

嫡出推定の見直し

 改正前の民法722条1項には、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」との規定がありました。「婚姻中に懐胎した」とは、結婚をしている間に妊娠したという意味です。結婚している間に妊娠した子が夫の子になるのは当たり前のことだと思うかもしれませんが、世の中には夫以外の男性の子を妊娠する場合もあります。そのような場合、その子を「夫の子」として戸籍に記されることを嫌がり、出産はするものの出生の届出をしないという深刻な事態が生じていました。いわゆる「無戸籍児」問題です。戸籍のない子は、国民として当然に享受できる様々なサービスを受けることができず、自分に何の責任がないにもかかわらず出生の時点で凄まじい不利益を受けてきました。
 そのような「無戸籍児」問題を解消するため、改正後の民法772条1項では、「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。」と定め、妊娠したときに婚姻関係がなくても(つまり別の男性と婚姻していたとしても)、出産したときに婚姻関係さえあれば、その婚姻相手の子と推定されるようになったのです。

改正前の民法722条

1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

改正後の民法722条

1 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
2 前項の場合において、婚姻の成立の日から二百日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
3 第一項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
4 前三項の規定により父が定められた子について、第七百七十四条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第七百七十四条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。

 なお、嫡出推定を受けたとしても、父母子の各当事者は、裁判所に「嫡出否認の訴え」をすることにより、自らの意思でその推定を覆す(戸籍上の親子関係を変更する)ことができます。この手続は、従前は夫しかできませんでしたが、上記改正に併せて、母や子や前夫もできるようになりました。また、その期間も、子の出生から3年に伸長されています(子の場合、21歳になるまで)。

民法774条 

1 第772条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。
2 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。
3 第1項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
4 第772条第3項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
5 前項の規定による否認権を行使し、第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者は、第1項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。

 なお、無戸籍児問題については、行政の努力により、現在は様々な手当がなされております。自分に戸籍がない、又は戸籍がなく困っている人を知っているという方は、専門の窓口までお問合せください。

女性の再婚禁止期間の廃止

 改正前の民法733条には、女性についてのみ、離婚後100日間の再婚禁止期間が定められていました。実は、この100日という再婚禁止期間も、平成28年の民法改正によって短縮されたものであり、その前は6か月(180日)もの間再婚が禁止されていました。平成28年の法改正は、6か月の再婚禁止期間が法の下の平等に違反すると争った訴訟で、最高裁が100日を超える再婚禁止期間は違憲との判決を下しましたことによるものです。
 この最高裁による100日という基準は、その当時の民法に、結婚した日から200日以降、また離婚後300日以内に生まれた子は、その婚姻中に懐胎したものと推定するという規定があったからです。嫡出推定の期間を考えれば、再婚禁止期間としては180日は過度に長く、100日あれば足りる(嫡出推定が重ならない)という訳ですね。そして、上記のとおり、令和4年の民法改正では嫡出推定の規定が大きく変わったことを受け、再婚禁止期間自体が不要となり、条文自体が削除されることになりました。女性のみに設けられていた再婚禁止期間ですが、嫡出推定という制度自体が社会的意義を殆ど無くした現状において、廃止されて当然のものといえます。

改正前の民法733条

女は、前婚の解消又は取消しの日から100日を経過した後でなければ、再婚することができない。