ギャンブルと債務整理

当事務所でも、ギャンブルが原因で借金が膨らんでどうにもならないところまで来てしまった、というご相談は少なくありません。返済が追いつかず、消費者金融やカードローンを次々に利用してしまい、気がつけば毎月の返済だけで手いっぱいになっている。家族や職場には言えず、「自分はダメな人間だ」と責め続けてしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。

まずお伝えしたいのは、ギャンブルにのめり込んでしまうことは、単に「意志が弱いから」「性格がだらしないから」ではないという点です。脳科学の分野では、ギャンブルにハマることには、きちんとしたメカニズムがあると説明されています。その上で、殆どの借金の問題は法的に解決することができます。本コラムでは、ギャンブルにのめり込む理由を簡単に紹介しながら、債務整理という選択肢についてお話しします。

ギャンブルによる借金苦のイメージ

1 なぜギャンブルにのめり込んでしまうのか

報酬系への強い刺激

1つ目のポイントは、ギャンブルが脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みを強く刺激する、という点です。スロットやパチンコ、競馬、オンラインカジノなどで勝った瞬間、人の脳ではドーパミンという物質が分泌されます。これは、単なる「快楽の物質」ではなく、「もう一度やりたい」、「次はもっと勝てるかもしれない」という行動のやる気を高める役割を持っています。

不確実な報酬による沼

特にギャンブルは、「勝つか負けるか分からない」、「いつ当たるか分からない」という不確実な仕組みの上に成り立っています。この「不確実な報酬」は、脳の報酬系を最も強く刺激することが分かっています。何回目で当たるか分からないが、ある確率で大当たりが来る、という仕組みは、動物実験でも、人を対象とした研究でも「一度ハマるとやめにくい」行動を生みやすいとされています。

次こそ当たる!の認知バイアス

また、人の考え方の癖である「認知バイアス」も、ギャンブルをやめにくくさせます。例えば、これだけ負け続けたのだからそろそろ当たるはずだ、と考えてしまう「ギャンブラーの誤謬」、自分の打ち方やタイミングで結果をコントロールできるように感じてしまう「コントロールの幻想」、負けた回数よりもたまにあった大勝ちの記憶だけを強く覚えてしまう「選択的記憶」などです。身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。頭では「トータルで見れば負けている」、「これ以上やってはいけない」と分かっていても、こうした脳や心の仕組みが働くことで、合理的な判断が歪められてしまいます。

ストレス解消の悪循環

さらに、ギャンブルがストレス解消や現実逃避の手段になっているケースも多く見られます。仕事や家庭の悩み、不安、孤独感などから一時的に逃れるために、「打っている間だけは何も考えなくて済む」、「当たっている時だけは自分の存在価値を感じられる」という感覚を求めてしまうのです。その結果、ストレスが強いほどギャンブルに向かい、ギャンブルで負けてさらにストレスが増える、という悪循環に陥ります。

このように、ギャンブルにのめり込む背景には、脳の仕組み、認知の癖、ストレスとの関係など、さまざまな要素が重なっています。精神医学の分野では、ギャンブルへののめり込みが一定の基準を超えると「ギャンブル障害」という依存症として扱われ、治療や支援の対象とされています。「自分の意志が弱いから」、「自分だけがおかしい」と必要以上に自分を責める必要はありません。

2 ギャンブルによる借金問題

とはいえ、借金そのものは、待っていても勝手に減ることはありません。むしろ利息や遅延損害金が積み上がり、時間が経つほど状況は厳しくなっていきます。返済のために別の業者から借りる、クレジットカードのキャッシングを重ねる、家族や友人から借りる、といった「自転車操業」の状態に陥る方も少なくありません。その結果、次のような弊害が生じます。

  • 毎月の返済額が増え、生活費が足りなくなる
  • 支払日が近づくたびに不安や焦りを感じ、仕事や日常生活に集中できなくなる
  • 督促の電話や書面が届き、精神的に追い詰められる
  • 家族に隠している場合、嘘を重ねるうちに家庭内の信頼関係が壊れてしまう
  • 最終的には、裁判や差押えといった法的手続を取られる可能性がある

ギャンブル依存に関する支援の現場では、借金問題を「依存症の二次被害」と表現することもあります。ギャンブルそのものと同時に、借金の問題に対しても、早めに対処することが大切です。

3 ギャンブルによる借金でも債務整理ができるのか?

結論からお伝えすると、ギャンブルが原因の借金であっても、債務整理は可能です。債務整理とは、法的なルールに基づいて借金を減らしたり、支払方法を見直したり、場合によっては免除を受けたりする手続の総称です。代表的なものとして、任意整理、個人再生、自己破産があります。

任意整理

任意整理は、裁判所を通さず、弁護士又は債務者本人が各債権者と交渉して、将来利息のカットや返済期間の調整を行う手続です。毎月の返済額を現実的な水準まで下げることにより、数年かけて完済を目指します。ギャンブルが原因の借金であっても利用できますが、元本を大幅に減らす制度ではないため、借入総額や収入とのバランスを見て検討する必要があります。なお、最近はどの債権者もシビアな対応が多いため、弁護士としては個人再生や自己破産などの方法をお勧めすることがあります。

個人再生

個人再生は、裁判所を利用して借金の元本そのものを大幅に圧縮し、原則3年で分割弁済していく手続です。基本的に住宅ローンを残したままその他の借金を減らす「住宅資金特別条項」を利用できるため(*事情によっては利用できない場合もございます。)、自宅を守りながら生活再建を図ることができるのが何よりの魅力です。ギャンブルによる借金であっても、再生計画が認可される可能性がありますが、再発防止への取り組みや家計の管理状況などが重要になります。

自己破産

自己破産は、裁判所に申し立てを行い、原則として全ての借金について返済義務を免除してもらう手続です。手持ちの資産を換価配当するのが基本ですが、一定の範囲で自由財産が認められているため、生活に必要不可欠な資産は残すことが可能です。例えば、登録から10年以上が経過している資産価値のない自動車などはそのまま乗り続けることができる場合が多いです。他方で、破産法上、浪費やギャンブルによる多額の借金は「免責不許可事由」とされています。ただし、免責不許可事由があるからといって、必ず免責が認められないわけではなく、事情を丁寧に説明し、更生への努力が認められれば「裁量免責」といって最終的に免責が認められるケースも多くあります。

どの手続が適切かは、借金の総額、収入や家族構成、保有している財産、今後の生活設計などによって変わります。「ギャンブルが原因だからどうせ自己破産しても許されない」、「債務整理は自分には使えない」と決めつける必要はありません。むしろ、ギャンブルが原因だからこそ、なぜそうなったのか、今後どう変えていくのかを含めて、早めに専門家に相談していただきたいところです。

ギャンブルによる借金苦のイメージ2

4 ギャンブルとの付き合い方を見直す

債務整理は、あくまで現在抱えている借金を整理するための手続です。大きな一歩ではありますが、それだけで全てが解決するわけではありません。せっかく債務整理で借金を減らしたり、免除を受けたりしても、再びギャンブルにのめり込んでしまえば、同じことを繰り返してしまいます。そのため、ギャンブルによる借金問題の解決には、借金の整理と並行して「ギャンブルとの付き合い方」を見直すことが重要です。例えば、次のような取り組みが考えられます。

専門医療機関や依存症外来への相談

ギャンブル障害は、医学的にも依存症として扱われる疾患です。心療内科や精神科の中には、依存症外来を設けているところもあります。薬物やアルコールと比べると受診のハードルは高く感じられるかもしれませんが、「ギャンブルがやめられない」という悩みを抱えている方を対象とした医療機関も存在します。

自助グループや支援団体の活用

ギャンブル依存に関する自助グループでは、同じ悩みを抱える人同士が経験を共有し、支え合いながら回復を目指します。家族のためのグループもあり、「どう支えればよいか分からない」というご家族にとっても、重要な場となり得ます。

家計管理の見直し

家計簿をつける、クレジットカードやキャッシュレス決済を必要最小限にする、現金管理のルールを決めるなど、日常生活の中でできる工夫もあります。弁護士との相談の中で、家計管理のポイントを一緒に整理していくことも可能です。

こうした取り組みは、最初から完璧である必要はありません。大切なのは、「ギャンブルにのめり込んでしまうのは自分だけではない」、「脳や心の仕組みとして起こりうることだ」と理解した上で、少しずつでも行動を変えていくことです。

5 相談から債務整理までの流れ

弁護士に依頼をして債務整理を行う場合、一般的には次のような流れになります。

法律事務所への相談予約

電話やメールで相談の予約をしていただきます。この段階では、借入先の名前と大まかな借入総額が分かっていれば十分です。個人破産や個人再生は裁判所ごとに独自の書式やルールがあるため、可能であればご自身の居住地の近くの法律事務所にご相談いただくのが安心です。地域によっては、ネットなどで法律事務所を探すのが難しい場合もありますが(webサイトを持っていない法律事務所は沢山あります)、その際はお近くの弁護士会にご相談ください。弁護士会が定期的に相談会を実施しているはずです。また、経済的な余裕がない方は「法テラス」の民事扶助制度のご利用をご検討ください。

面談でのヒアリング

面談では、現在の借入状況、毎月の収入と支出、家族構成、財産の有無などを詳しくお伺いします。ギャンブルに使ってしまった事情についても、責めるためではなく、最適な解決方法を選ぶために確認させていただきます。なるべく正直に、正確な情報を伝えるように心がけてください。任意整理、個人再生、自己破産など、どの手続がもっとも適切かを一緒に検討していきます。

委任契約と受任通知の発送

正式にご依頼いただくと、委任契約を締結後、弁護士から各債権者に対して受任通知を送付します。これにより、多くの場合、業者からの直接の督促や取立ては一旦ストップします。これだけでも精神的な負担が大きく軽くなった、とおっしゃる方が少なくありません。その後、任意整理であれば債権者との交渉を行い、個人再生及び個人破産の場合には裁判所に提出する書類等を準備していきます。任意整理は基本的に弁護士にお任せですが、個人再生と個人破産の場合には債務者本人による積極的な協力が必要不可欠です。督促や取立がストップしたからといって気を抜かないようにしてください。

6 おわりに

ギャンブルにのめり込み、借金が膨らんでしまった方の多くは、「自分はダメだ」、「家族や社会に顔向けできない」と強く自分を責めています。しかし、ギャンブルにハマることには、脳の仕組みやストレスとの関係など、個人の意志だけではどうにもならない側面があることが分かっています。

責めるべきは、あなたの人格や人間性ではなく、「ハマりやすく、やめにくくできているギャンブルの仕組み」と言ってよいでしょう。その一方で、借金という現実の問題は、放置すればするほど苦しくなります。債務整理は、その現実に正面から向き合い、生活を立て直すための法的な道具です。

今の状況を誰かに話すことは、とても勇気のいることです。それでも、相談の一歩を踏み出した時点で、すでに問題解決へのスタートラインには立てています。ギャンブルにのめり込んでしまった理由を一緒に整理しながら、借金の整理と再出発のための方法を考えていきましょう。ひとりで抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。

浜松市など静岡県西部地域で借金にお困りの方は、ゆりの木通り法律事務所にお問い合わせください。