交通事故物損被害に関する裁判例まとめ
損害賠償の主体が問題となった事案
- 所有権留保特約付売買によって購入した自動車について,代金完済前に交通事故が発生し修理代等の損害が生じた場合であっても,同自動車の使用収益について直接的な利害関係を有する買主の損害賠償請求が認められる(熊本地判昭和43年4月26日公民1巻2号499頁)。
- 名目上の所有権はリース会社にあるが,修理や保守の義務はユーザーが負担することになっている場合,修理費用をユーザーの損害として加害者に請求することができる(東京地判平成21年12月25日自保ジ1826号39頁)。
- 自動車が交通事故により毀滅するに至った場合,当該自動車の交換価値相当の損害賠償請求権を取得するのは,不法行為時において自動車の所有権を有していた売主であって,買主ではない。もっとも,毀滅に至らない程度の損害を受けた場合には,買主ないしその意思に基づいて当該自動車を使用する者が,加害者に対し,その利用権を侵害されたことを理由として,実際に支出したか,あるいは支出を予定する修理費や代車使用料の賠償を求めることができる(東京地判平成15年3月12日交民36巻2号313頁)。
修理費用が問題となった事案
- 修理がされておらず,また,今後も修理する可能性が無いとしても,現実に損害を受けている以上,損害は既に発生しているとして修理費用相当額を損害として請求することができる(大阪地判平成10年2月24日自保ジ1261号2頁)。
- 金メッキを施したバンパーが事故により損傷した場合,その取り換え費用は損害として請求することができるが,バンパーに金メッキを施すことは無用に損害を拡大させる行為であるため過失相殺の法理によって金メッキ修理代金の5割を減額された(東京高判平成2年8月27日判時1387号68頁)。
- 購入後2年が経過したキャデラックの物損事故について,既に色褪せが生じているため全塗装では過大な費用をかけて原状回復以上の利益を得ることになるため,部分塗装の修理費用のみを損害として認めた(東京地判平成7年2月14日交民28巻1号188頁)。
- メルセデス・ベンツSL500のオープンカーについて,特殊塗装のため部分塗装では色合わせが困難であり,事故車両であることが一目瞭然となって車両価値が低下するため全塗装費用を損害として認めた(神戸地裁平成13年3月21日)。
- 自動車の物損事故で板金修理が可能である場合,部品(パネル)交換の方が経済的である等の理由がない以上,板金修理費用しか認められない(岡山地判平成6年9月6日交民27巻5号1197頁)
経済的全損が問題になった事案
- 物理的・技術的に事故車両の修理が可能でも,修理費用が事故当時の車両時価と事故車両の売却代金との差額(いわゆる「買替差額」)に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には,経済的に修理不能(いわゆる「経済的全損」)として,損害としては買替差額及び買替諸費用の限度にとどまる(東京地判平成15年8月4日交民36巻4号1028頁)。
- 事故車両と同種同等の車両を中古車市場において取得することが困難であるなどの特別な事情がある場合には,買替差額等を上回る修理費用が損害として認められる余地もあるが,被害者が事故車両に個人的な愛着を持っていたという程度の理由では特別な事情とはいえない(東京高判平成4年7月20日交民25巻4号787頁)。
- 初年度登録後12年以上が経過したトヨタ・スープラについて,約8カ月前に70万円で購入したこと,中古車市場における同種車両と比較して走行距離が3万キロと極めて少ないことから,レッドブックによる評価が排斥された(東京地判平成16年4月22日交民37巻2号519頁)。
- 被害車両が経済的全損か否かは,適正修理費用の賠償を免れようとする加害者において立証する必要があるため,被害車両の本体価格161万9000円に,電動サンルーフ,カーナビ,アルミホール等の合計価格29万5360円及び消費税等の買替諸費用を加算した金額は,適正修理費用204万7302円を上回り,経済的全損とは認められない(東京高判平成28年11月10日自保ジ1989号184頁)。
- 同種同年型式の車両は少なくとも1044万円以上する中古観光バスについて,観光バスとして業務にしようして,営業の用に供するためには特別の塗装,内装,設備等を要するとして,中古車価格の1.2倍程度の修理費全額である1250万590円を車両の損害と認めた(札幌地判平成8年11月27日自保ジ1189号2頁)。
買替差額が問題になった事案
- 車両の時価は,原則として同一の車種・年代・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額である(最判昭和49年4年15日民集28巻3号385頁)。
- 新車価格が722万円のメルセデス・ベンツが引き渡しの20分後に追突された場合,既に一般車両と同様に公道において通常の運転利用に供されていた以上,引渡し直後であったことは新車の買い替えを是認すべき事情とはいえない(東京地判平成12年3月29日交民33巻2号633頁)。
- 新車登録後14年以上経過して評価額0円の自動車について,車検期限までの96日間,1日200円の割合による19万2000円の使用価値を認め,この金額を車両時価額とした(大阪地判平成2年12月20日自保ジ911号2頁)。
- 事故の約2か月前に購入したばかりで経済的全損となった中古車について,レッドブックによらずに,実際の購入価格をもとに定率法(償却期間6年)による減価償却を行って車両時価額を約63万円とした(大阪地判平成14年5月7日交民35巻3号635頁)。
買替諸費用が問題となった事案
- 買替諸費用として,新規乗用車の車検手数料及び車庫証明費用が損害として認められた(東京地判平成6年6月24日交民27巻3号819頁)。
- 買替諸費用として,登録費用,同販売店手数料,登録番号変更費用,プレート代実費,車庫証明費用,同販売店手数料,納車費用を損害として認められた(東京地判平成8年6月19日交民29巻3号903頁)。
- 被害車両と同程度の中古車両の取得に要する自動車取得税,事故車両の自動車検査証有効期間の未経過部分に相当する自動車重量税,移転登録,車庫証明,廃車のために各法定費用,販売店の登録代行費用,車庫証明手続代行費用,納車費用を損害として認めた(東京地判平成15年8月4日交民36巻4号1028頁)。
- 被害車両が全損として評価される場合の買替諸費用として,車両本体価格に対する消費税,自動車取得税,登録・車庫証明法定費用,廃車解体処分費用,登録手続代行費用,車庫証明手続代行費用,納車手数料等を損害として認めた(東京地判平成15年8月26日交民36巻4号1028頁)。
代車使用料
- 代車使用料が認められる期間は経済的全損であることが判明するまでの期間及びその終期から買替完了までの間とするのが相当であり,車種等も考慮すると通常1か月程度であるが,保険会社の調査に時間を要し正式見積りを取るのが遅れたとして,40日間の代車使用料を認めた(京都地判平成23年2月1日交民44巻1号187頁)。
- ポルシェ911ターボカブリオレにつて,修理にはドイツから修理部品を取り寄せる必要があったことから,163日間の代車使用料を認めた(大阪高判平成26年2月6日自保ジ1952号127頁)。
- 代車を友人から借りて現実には出費がなかったが,そのお礼をしようと考えている場合に,事故車両が外車で中古車市場の同種の車両が多く出回っていないことを踏まえ,国産ワゴン車の代車料金等を考慮して日額1万5000円の30日分を代車使用料として認めた(東京地判平成10年10月7日交民31巻5号1483頁)。
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