国選弁護人とペットの餌やり問題
刑事事件の弁護人、特に国選弁護人を引き受けると、法律書には書いていない難題に直面することがあります。その一つが、被疑者が飼っているペットの餌やり問題です。
私はここ数週間の間、逮捕勾留された被疑者が飼っていたネコの世話をするため、片道1時間ほどかかる被疑者の自宅へ幾度となく通いました。被疑者は独り暮らしの高齢者で、頼れる親族もいません。市役所、警察、検察など、あらゆる機関に相談を重ねましたが、現状の制度の中でネコを救い出す明確な解決策は見つかりませんでした。
幸いなことに、私の呼びかけに応えて餌やりを手伝ってくれた2人の弁護士仲間や、新たな家族としてネコを迎え入れてくれる里親さんとの縁に恵まれ、ようやくこの小さな命を守り抜くことができました。

まず、法律上の原則を確認しましょう。国選弁護人の職務は、あくまで刑事手続における被疑者の防御権を守ることです。具体的には、①接見によって被疑者の精神的な安定をはかりつつ、刑事手続の説明とアドバイスをする、②証拠を集めて無罪や減刑を主張する、③示談交渉を行い、早期の釈放を目指す等です。
これらの業務が本分であり、留守宅の掃除や公共料金の支払い、そしてペットの餌やりといった被疑者のプライベートに関する問題は、職務の範囲外となります。弁護士が自ら鍵を預かって餌をやりに行く義務はなく、むしろ無用のトラブルを避けるため、プライベートに関する問題への関与は弁護士会でも推奨されていません。
しかし、理屈では割り切れないのが現場の実情です。警察署の接見室で、被疑者が涙ながらに「自宅に残したペットが死んでしまう。助けてほしい」と訴えてきたとき、それを無視することは容易ではありません。
もし放置してペットが死んでしまえば、それは動物愛護法上の問題になるだけでなく、被疑者の精神状態を著しく悪化させます。絶望した被疑者が自暴自棄になり、取調べで投げやりな供述を始めたり、更生の意欲を失ったりすれば、本来の弁護活動にも大きな支障をきたすからです。
そのような場合、弁護人は、まずは救出のための調整役を担うことになります。例えば、親族や知人に連絡し、鍵を渡して世話を頼む、身寄りがない場合、動物愛護団体や自治体の窓口へ相談する、長期勾留が見込まれるなら里親さんを探す等です。
これらはすべて、国選弁護の報酬には含まれないボランティア活動です。電話一本、手紙一通の調整にも時間がかかりますが、目の前の命を救うために、多くの弁護士が人知れず動いているはずです。

どうしても他に選択肢が見つからない状況では、弁護人が自ら様々なリスクを負い、さらに自腹で餌代を工面して、現場へ通うことも少なくありません。これは本来の職務を超えた行為であり、報酬にも反映されず、また誰かに称賛されることもない活動です。
しかし、このような表には出ない善意は、弁護士に限らず、どのような職業にもつきものではないかと想像します。そんな目に見えない善意の積み重ねによって、私たちの社会はかろうじて支えられているのかもしれません。
* 写真はネコの餌やりの帰りに寄った掛川市の海岸です。

