弁護士が勧める弁護士の選び方

 現在,全国には約4万人,当事務所のある浜松市周辺(静岡県西部地域)だけでも約150人の弁護士が活動をしています。弁護士に依頼を考えている方は,数多くの弁護士の中から一体誰に依頼をしたらいいのか,弁護士の選び方について悩んでいるのではないでしょうか。決して安くない弁護士費用を支払い,人生を左右するような事件を依頼するからには,「最善の弁護士」を探したいと考えるのは当然のことです。
 そこで,弁護士の立場から,どのように弁護士を選ぶべきか,あなたにとっての「最善の弁護士」とはどのような弁護士なのかをお伝えできればと思います。なお,以下の見解は浜松市のような地方都市を前提とした一弁護士の私見であることをお断りしておきます。

 

1 専門性
 相談者の方から「先生の専門は何ですか?」と聞かれることがあります。例えば医者であれば,風邪をひけば内科に,骨折をすれば整形外科に,耳が痛ければ耳鼻科に行くのが当たり前です。それと同じように,自分の抱える問題を専門とする(得意とする)弁護士に依頼や相談をしたいとの考えからの質問だと推察します。
 しかしながら,弁護士の世界では,医者とは違い,ある分野を専門に扱う弁護士はごく少数しかいません。とくに,地方都市ではなおさらです。ある分野に特化すると経営的に成り立たないという理由もあるかもしれませんが,弁護士には歴史的に職能を独占する国家資格者の責任として,スペシャリストではなくゼネラリストを目指す風潮があります。例えば自分がその町で唯一の弁護士だったとして,「それは自分の専門ではないから分からない」という回答はなかなかできません。どのような相談があっても弁護士は一定水準以上の仕事はできるような準備を常にしていますし,司法試験や司法修習はそれを担保する内容になっています。
 したがって,あなたの抱えている法的な問題が,極めて特殊なものではない限り,事件の種類で弁護士を選ぶ必要はないでしょう。なお,利益相反禁止の規定(弁護士職務基本規程)により,銀行の顧問をしているので債務整理ができない弁護士や,労働組合の顧問をしているので使用者側の労働問題を取り扱えない弁護士は地方都市にも存在します。各弁護士の利益相反関係については,直接その弁護士に確認してみてください。

2 費用
 弁護士に依頼する場合,その費用はとても重要な要素になります。ひと昔前には,弁護士の報酬基準は日弁連によって全て決められており,個々の弁護士によって変わることはありませんでした。しかし,現在は日弁連の報酬基準が撤廃され,報酬は個々の弁護士が自由に決めることができるようになっています。そのため,少しでも費用の安い弁護士に依頼したいと考えるのは当然のことだと思います。
 それでは個々の弁護士の報酬基準はどのように知ることができるでしょうか?すべての弁護士が報酬基準をウェブサイトに公表していればよいのですが,なかなか公表はされていません。そもそも,地方都市では,現在でもウェブサイトをもっていない弁護士が大体数です。個々の弁護士の報酬基準を知るためには,実際にその弁護士に見積もりを依頼することになります。浜松市の場合,日弁連の旧報酬基準に基づき費用を決めている弁護士が多いと聞きます。当事務所でも同様に原則として旧報酬基準に基づいて費用を算定しています。そのため,どの弁護士に見積もりを依頼しても,大きな違いはないかもしれません。
 なお,経済的な理由により弁護士費用の支払いが困難な場合には,法テラスの民事法律扶助制度の利用をご検討ください。法テラスの利用には一定の条件がありますが,弁護士費用の総額も安価で,かつ月5000円からの分割払いが可能です。法テラスのご利用をお考えの方は,お近くの法テラスにご連絡下さい。

3 相性
 多くの事件では,解決までに6~12カ月程度の時間が掛かります。その間,あなたは何度も弁護士と打ち合わせを重ねることになります。自分と相性の悪い弁護士に付き合わなければいけないのは大変な苦痛でしょう。結果は同じでも満足度は大きく異なります。専門性や費用に大きな違いがないとすれば,弁護士を選ぶ上で一番大切な指標は,その弁護士とあなたとの相性ではないでしょうか。
 それでは,自分と相性の良い弁護士をどのように探したらいいのでしょうか?弁護士の人間性はどのように知ればよいのでしょうか?すべての弁護士がSNSなどで個人的な情報発信をしていればいいのですが,そのような弁護士はごく少数しかいません。やはり,ご自身で実際にその弁護士と会って確かめるしかないでしょう。
 多くの法律事務所では,いつでも法律相談の受け付けをしています。インターネットや口コミなどでめぼしい弁護士を見つけたら,法律相談の申し込みをしてみましょう。弁護士会が主催する法律相談を利用してももよいでしょう。法律相談の費用は,30分5000円程度が一般的です。安くはない費用ですが,自分にとっての「最善の弁護士」を見つけることができるのであれば価値のある支出です。実際に会って,話して,その弁護士との相性を見極めましょう。法律相談のやり方は,弁護士によって千差万別です。
 法律相談をしたからといって,その弁護士に事件を依頼しなければいけないわけではありません。自分に合わない,話し方に違和感を覚える,真剣に向き合ってくれない等と感じたら,その弁護士に依頼をしなければよいだけです。1回の相談だけでは分からないという場合は,何度か相談すればよいと思います。その上で,どの弁護士に依頼するのがよいのか,誰が自分にとって相性が良い弁護士は誰なのかを見極めて下さい。

4 まとめ
 以上のとおり,1)専門性,2)費用,3)相性と,弁護士を選ぶ要素について検討をしてきました。そのなかで最も差が出るものは,その弁護士との「相性」ではないでしょうか。そのため,私としては,依頼者の数だけ「最善の弁護士」がいると考えています。弁護士とのミスマッチは,依頼者にとって悲劇であることはもちろん,弁護士にとっても喜ばしいことではありません。すべての依頼者が,自分にとっての「最善の弁護士」を選べることを願っています。