相続した土地は国に引き取ってもらえる?
相続土地国家帰属制度とは何か
令和5年4月27日、「相続土地国家帰属制度」が施行されました。これは、相続などによって取得した不要な土地を国に引き取ってもらえる制度であり、正式には「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第21号)」に基づいています。
人口減少や高齢化により、相続された土地が放置され、所有者不明土地や管理不全土地となる問題が全国的に深刻化している中、土地所有権の「放棄」を法的に可能にするこの制度は、土地利用について新たな選択肢をもたらしました。もっとも、簡単に使える制度ではなく、またいくつかの条件も存在するため、まずは制度の内容をしっかりと把握することが重要です。

制度の対象となる者と土地
この制度を利用できるのは、相続または遺贈により土地を取得した者です。売買、贈与、交換などの契約により取得した土地については制度の対象外です。
また、土地については、すべてが帰属の対象となるわけではなく、法第5条に列挙された不承認事由に該当する土地は対象外となります。具体的には、以下のような土地が該当します。
- 建物が存する土地
- 土壌汚染が認められる土地
- 境界が明らかでない土地
- 崖地で管理が困難な土地
- 他人による通行や使用がなされている土地
- 担保権や用益権が設定されている土地
さらに、農地法の規制対象となる農地については、あらかじめ農地転用の許可を得る必要があります。
申請手続の流れ
制度を利用するには、まず相続登記を完了させておく必要があります。その上で、申請者は、土地の所在を管轄する法務局に対して、必要書類を添付して申請を行います。
申請には、1筆ごとに審査手数料として14,000円が必要です。この費用は申請時に納付するものであり、審査の結果にかかわらず返金されません。
申請後、法務局により書面審査および実地調査が行われ、土地の状況が審査されます。審査においては、現地の境界や利用状況、権利関係が精査され、不承認事由に該当するか否かが判断されます。
審査を通過し、承認されると、申請者は法務大臣に対して負担金を納付し、納付が完了すると土地の所有権は国に移転します。
負担金とその意義
申請者が納付する負担金は、国が土地を管理・処分するにあたっての行政コストを反映するものとされています。原則として、1筆あたり20万円が基準とされていますが、土地の性質や立地により増額されることもあります。
たとえば、接道がない土地や、現地確認に多大な手間がかかる山林などは、追加負担が必要とされることがあります。負担金の額は審査終了後に通知されるため、申請者はその時点で引取を最終的に決断することになります。
制度の実施状況(公式統計)
法務省が公表した統計によれば、制度開始(令和5年4月27日)から令和7年3月31日までの累計は次のとおりです。
- 申請件数:3,580件
- 帰属が承認された件数:1,486件(承認率約41.5%)
- 却下・不承認件数:55件(複数理由を含む。同一事件で重複計上される場合あり)
- 審査継続中:約2,000件強(上記以外)
制度の活用における実務的注意点
この制度の利用にあたっては、いくつかの実務的な注意点があります。
第一に、境界未確定地や測量未了地は、審査において否認されるリスクが高いため、申請前に土地家屋調査士による境界確認を行うことが推奨されます。
第二に、共有名義の土地については、すべての共有者が共同して申請する必要があり、個別の単独申請はできません。共有者間での協議・合意形成が重要です。
第三に、審査には一定の期間を要し、その間にも土地の管理義務や固定資産税の納付義務は存続します。制度の利用を検討する場合は、早めに専門家に相談し、全体のスケジュールを把握しておく必要があります。
制度の活用が適している事例
以下のようなケースでは、相続土地国家帰属制度の活用が有効な選択肢となり得ます。
- 相続した山林や原野について、将来的な利用の見込みがなく、管理が困難な場合
- 市街地に所在するが、極めて狭小で単独では利用価値がない土地
- 離れた地域に所在し、現地確認すら困難な遠隔地の土地
- 地元に縁のない相続人が、単に納税や草刈りなどの義務だけを負っている状態
こうした状況では、土地を国に帰属させることで、所有者としての管理責任や費用負担から解放される実益があります。
制度利用の可否判断と専門家の関与
土地の状況や権利関係は千差万別であり、制度の適用可否も個別判断を要します。書類の整備や審査対応、境界の確認、権利関係の整理には、弁護士・司法書士・土地家屋調査士などの専門家の関与が不可欠です。
また、制度の利用が本当に最善の選択か否かは、他の処分方法(売却、寄附、等価交換など)との比較により判断すべきです。負担金や手続の労力も踏まえ、総合的な観点から結論を導く必要があります。
浜松市には山間部から市街地まで多様な土地が存在しており、とりわけ相続によって取得された放置地や管理困難地も少なくありません。相続により不要な土地を取得してお困りの方は、制度の活用可能性を早期に検討し、適切な助言を受けることをおすすめします。