部活動に参加する義務はあるか?

部活動に関する問題

 先日、スポーツ庁の有識者会議が、部活動を地域の活動として移行していくための課題を議論し、その結果を提言案としてとりまとめたというニュースが流れました。これは、部活動と教員の働き方改革を両立させるため、休日の中学校の部活動を地域のスポーツクラブなどに段階的に移行していくという国の方針を受けたものです。また、このような方針を受け、日本中学校体育連盟は、一定条件のもとで地域のスポーツクラブ単位でも大会の出場を認めることを決めたとのニュースもありました。部活動に関する学校教育の現場は今後大きく変わっていくことが予想されます。
 私が中学生だったころ、部活動への参加は当然の「義務」とされていました。田舎の公立中学校ですから、そもそも部活動の選択肢が極めて少なく、運動部なら野球、サッカー、テニス、バレー、バスケ、そして文化部なら吹奏楽に美術くらいしかありません。少ない選択肢の中から部活を選ぶと、放課後には毎日のように部活動があり、休日も朝から晩まで練習試合が組まれていました。顧問の教員はその競技の専門家ではなく、技術的な指導ではなく精神論に基づく叱咤しかできません。その後の人生の糧として得るものが全くなかったわけではありませんが、貴重な時間の浪費としか思えませんでした。中学生の貴重な時間を費やして部活動に参加するのであれば、せめて専門的な技能を備えた指導者から、技術的な助言を得ながら活動したいものです。それができないのであれば、自主的に英会話や茶道を習ったり、楽器を演奏したり読書をしたりしていた方がよっぽど有意義だったはずです。
 現在も、様々な理由で部活動に参加したくないという子どもは一定数いるでしょう。学校が部活動への参加を推奨(事実上の義務付け)している場合、生徒はそれを拒否することはできるのでしょうか?

中学校の風景

部活動の法的な位置づけ

 上記の問いに答えるために、部活動の法的な位置づけを検討する必要があります。ここでは、中学校の学校教育を中心に見ていきましょう。まず、我が国の最高法規である日本国憲法には、第26条1項に「教育を受ける権利」に関する条文があります。教育を受ける権利は、子供に対して保障されるものであり、その権利の内容は子どもの学習権を保障したものと考えられています。

日本国憲法26条1項

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

 そして、教育を受ける権利に対応するかたちで、国家は、教育制度を維持し、教育条件を整備するべき義務を負います。この要請を受けて、教育基本法や学校教育法などが定められ、小中学校の義務教育を中心とする教育制度が設けられました(芦部信喜『憲法[第4版]』岩波書店)。学校教育法では、48条1項において、中学校の教育課程(中学校教育の実質的内容)は文部科学大臣が別に定めるものとされています。

学校教育法48条1項

中学校の教育課程に関する事項は、第四十五条及び第四十六条の規定並びに次条において読み替えて準用する第三十条第二項の規定に従い、文部科学大臣が定める。

 この文部科学大臣が定める教育課程は、「学校教育法施行規則」の72条に定めがあり、さらに具体的内容は同施行規則74条で文部科学大臣による「公示」として「中学校学習指導要領」によることとされています。
 なお、この施行規則とは、各省の大臣が担当する行政事務について、法律などの委任に基づいて定める細かいルールのことです。憲法→法律→施行規則と、上位の法が下位の法に詳細なルールを定めることを委任している構図が見て取れると思います。ここまで「部活動」に関する定めは一切登場していません。

学校教育法施行規則72条 

中学校の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語の各教科(以下本章及び第七章中「各教科」という。)、特別の教科である道徳、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。

学校教育法施行規則74条

中学校の教育課程については、この章に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する中学校学習指導要領によるものとする。

 文部科学大臣の告示としての「中学校学習指導要領」は、何度も改定が繰り返されています。直近では、平成29年に改定がありました。改定された中学校学習指導要領の第1章「総則」、第5「学校運営上の留意事項」、1「教育課程の改善と学校評価,教育課程外の活動との連携等」の「ウ」では、次のように定め、法令における部活動の位置づけを示しています。

教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等,かん学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,学校や地域の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする。

 第一に、中学校における部活動は、教育課程外の学校教育活動です。すなわち、部活動は、法令が定める教育課程ではなく、各学校が独自の裁量で定める課外活動に過ぎません。
 第二に、部活動は、生徒の自主的、自発的な参加が前提です。仮に、各学校が生徒に部活動への参加を推奨するとしても、それを義務として強制することはできません。
 第三に、部活動は、学校や地域の実体に応じて各種団体との連携などにより持続可能な運営体制が求められるています。部活動に関して教員や保護者に過度の負担を課す従来の体制は見直しを迫られているといえます。

部活動に参加する義務はない

 以上のとおり、学校教育法の委任を受けて文部科学大臣が告示する学習指導要領によれば、中学校における部活動はあくまで「教育課程外の学校教育活動」であり、「生徒の自主的、自発的な参加が前提」となるため、その参加は法令に基づく義務とはいえません。学校側が、生徒に対し、部活動への参加を強制することはできないのです。また、自主的な活動ですから、学校が部活動に関して同意なく費用負担を課すこともできません。
 現在においても部活動への参加を強制している学校はないとは思いますが、もしそのような学校があれば直ちに見直しが必要です。もしあなたが部活動への参加を強制されて困っているのであれば、学習指導要領に基づき然るべき主張をすることができます。自分で交渉ができない場合には、静岡県弁護士会の子どもの権利相談にご連絡ください。弁護士に無料で相談ができます。浜松市などの静岡県西部地域の場合には、静岡県弁護士会浜松支部が窓口になり、子どもの権利に強い弁護士を紹介しています。