静岡県における特殊詐欺の現状と対策
はじめに
つい先日、私の携帯電話に「静岡県警ですが、○○さんの携帯電話ですか?捜査にご協力をお願いしたくお電話しました…」という電話がありました。私は、職業柄、警察官が個人の携帯電話にこのような不躾な電話をしないことをよく知っていますので(警察官は所属や氏名を必ず名乗りますし、警察署の代表番号から電話を掛けます)、すぐに特殊詐欺だと気付くことができましたが、信じてしまう方もいるかもしれません。
近年、社会問題として深刻化している特殊詐欺は、その手口が巧妙化・多様化しており、誰もが被害に遭う可能性があります。特に、高齢者を狙った詐欺が多く、大切な老後資金や家族の絆を悪用されるケースが後を絶ちません。このコラムでは、静岡県における特殊詐欺の現状について、統計データや具体的な手口を交えながら詳しく解説します。そして、私たち一人ひとりができる具体的な対策についてもお伝えします。大切な財産とご家族を守るために、ぜひご一読ください。

静岡県における特殊詐欺の現状
静岡県警察が発表している統計によると、特殊詐欺の認知件数、被害額ともに依然として高い水準で推移しており、深刻な状況が続いています。
認知件数と被害額の推移
静岡県警察の発表によると、2024年1年間の特殊詐欺の認知件数は383件で、2023年と比べ30件増加しています。さらに深刻なのは被害額で、約16億300万円と、2023年に比べ約8億4400万円も増加しました。これは、被害件数の増加以上に、1件あたりの被害額が高額化していることを示唆しています。
特に、いわゆるオレオレ詐欺(誰かに成りすまして金銭をだまし取る詐欺)が増加しており、被害全体の約6割を占めています。中でも警察官をかたる手口の犯行が急増しており、2023年と比べ81件増の84件、被害額も約6億9200万円と大幅に増加しています。これは、県民の皆様が警察官という公的機関の人間からの電話に対し、信頼を寄せやすい心理を悪用しているためと考えられます。
また、新たな手口として、実在する警察署や警察本部の電話番号を偽装して電話を掛ける詐欺も報告されています。2024年1年間で県警本部の番号を偽装した電話が39件確認され、2025年に入ってからも東京の新宿署の番号を偽装した電話が3件確認されているそうです。発信元の電話番号が表示される「ナンバーディスプレイ」機能がある場合でも、偽装された番号が表示されるため、見破りにくい点が特徴です。
発生地域・年齢層の特徴
特殊詐欺の被害は、静岡県内全域で発生していますが、特に都市部や高齢化が進む地域で多く見られる傾向があります。また、被害者の多くは高齢者であり、特に70歳以上の方が狙われるケースが目立ちます。これは、高齢者が自宅にいる時間が長く、電話に出る機会が多いこと、社会情勢や詐欺の手口に対する情報が不足している可能性があること、そして、詐欺師が話術によって巧みに信用を築きやすいといった要因が考えられます。
静岡県で特に注意すべき特殊詐欺の手口
静岡県内で特に被害が多い、または巧妙化している特殊詐欺の手口について解説します。
- オレオレ詐欺 息子や孫、あるいは警察官や弁護士などを装い、家族や親族が事件や事故を起こした、会社のお金を使い込んだ、犯罪捜査のため等といった名目で、現金をだまし取る詐欺です。電話でお金の話が出たら、一度電話を切って、必ず本人や家族、警察に確認することが重要です。
- 還付金詐欺 市役所や税務署の職員を名乗り、「医療費や税金の還付金がある」などと電話をかけ、ATMに誘導して操作させ、実際には犯人の口座に送金させる手口です。高齢者がATMの操作に不慣れなことを悪用し、電話で巧妙に指示を出します。
- 架空料金請求詐欺 「有料サイトの利用料金が未納になっている」「パソコンがウイルスに感染した」などと不安を煽り、コンビニエンスストアで電子マネーを購入させたり、銀行口座に現金を振り込ませたりする手口です。実在する有名企業や公的機関を装ってメールやSMSを送りつけ、記載された連絡先に電話させたり、偽のウェブサイトに誘導したりするケースも多発しています。

特殊詐欺被害に遭わないための対策
特殊詐欺から身を守るためには、日頃からの意識と具体的な対策が不可欠です。
電話でお金の話が出たら詐欺!
少し極端に思われるかもしれませんが、電話を使ってお金のやり取りをしようとする相手がいたら「詐欺かも」と疑うべきです。特殊詐欺グループは、「時間がない」、「今すぐに」、などと焦らせて思考力を奪う手口が見られますが、事前に心構えがあるだけで焦らなくなります。
家族や警察に相談する
不審な電話やメール、SMSが来たら、すぐに家族や信頼できる人に相談しましょう。警察や地域の消費生活センターに相談することも非常に有効です。相手が警察を名乗っていたら、警察に相談することですぐに詐欺か否かが分かります。
一人で判断しない
詐欺師は、あなたを孤立させ、冷静な判断力を奪おうとします。どんなに急いでいるように見えても、一人で決めつけず、必ず誰かに相談しましょう。世の中には「明日では遅い」などということは殆どありません。大切なお金を守るために、一呼吸置くことが重要です。
警察官、市役所職員、銀行員等の肩書を信じない
相手が警察官や銀行員、市役所職員などの肩書を名乗っても信用しないでください。必ず、自分で調べた警察署、銀行又は市役所の代表番号に電話し、今話している人物が本物か確認しましょう。また、警察官や市役所職員や銀行員が、キャッシュカードの暗証番号を聞いたり、キャッシュカードを自宅に取りに来たり、ATMの操作を指示したりすることは絶対にありません。
迷惑電話対策機器の活用
常に留守番電話設定にしておき、相手の用件を確認してから電話に出る習慣をつけましょう。詐欺師は、声が録音されるのを嫌がる傾向があります。
知らない番号には出ない
かかってきた電話番号を確認し、知らない番号からの電話には出ないようにしましょう。特に、050から始まるIP電話や、海外からの着信には注意が必要です。少しでも相手の電話番号がおかしいなと感じたら出るのを止めてください。
迷惑電話対策機能付き電話機の導入
自動で迷惑電話をブロックしたり、警告メッセージを流したりする機能を持つ電話機が市販されています。これらの機器の導入も検討しましょう。警察では、迷惑・悪質電話防止装置の設置を推奨しており、一部自治体では補助金制度を設けている場合もありますので、確認してみましょう。
個人情報の管理を徹底する
電話やメールで、氏名、住所、生年月日、家族構成、金融機関の口座情報などを安易に教えないようにしましょう。
パスワードや暗証番号の使い回しを避ける
複数のサービスで同じパスワードや暗証番号を使い回していると、一つが漏洩しただけで他の情報も危険にさらされます。
地域コミュニティでの情報共有
近所付き合いを大切にし、地域住民同士で特殊詐欺に関する情報を共有しましょう。不審な電話や訪問があった際には、お互いに注意喚起し合うことが重要です。
高齢者への声かけ
高齢の家族や友人がいる場合は、日頃から特殊詐欺について話し合い、被害に遭わないための意識を高めてもらうよう働きかけましょう。
万が一、特殊詐欺被害に遭ってしまったら
もし、特殊詐欺の被害に遭ってしまった場合、すぐに諦める必要はありません。適切な対処をすることで、被害を最小限に抑えたり、場合によっては被害金を取り戻せる可能性もあります。
- すぐに警察に連絡する 被害に気づいたら、すぐに110番または最寄りの警察署に連絡しましょう。被害状況を詳しく説明し、指示を仰いでください。
- 金融機関への連絡 被害金が振り込まれた金融機関にも連絡し、組戻し手続き(誤って送金したお金を取り戻す手続き)や口座凍結の依頼を検討しましょう。ただし、組戻しはあくまで相手の口座に残金がある場合に限られ、確実に返金される保証はありません。
特殊詐欺の被害は、決して珍しいことではありません。被害に遭われたことを恥ずかしいと感じる必要は全くありません。詐欺師は、あらゆる知識と手口を駆使してあなたを騙そうとします。一人で抱え込まず、すぐに警察に相談してください。
まとめ
静岡県における特殊詐欺の状況は、依然として深刻であり、手口も日々巧妙化しています。しかし、私たち一人ひとりが詐欺の手口を知り、適切な対策を講じることで、被害を未然に防ぐことは十分に可能です。
不審な電話やメールが来たら、すぐに家族や警察に相談する勇気を持ちましょう。そして、万が一被害に遭ってしまった場合には、決して諦めず、迅速に警察や金融機関に相談することが、被害回復への第一歩となります。
静岡県弁護士会では、各地域の弁護士会に相談窓口があります。詐欺被害でお困りの方で弁護士をお探しの方はお近くの弁護士会にご相談ください。当事務所のある静岡県西部地域では、静岡県弁護士会浜松支部が窓口になります。