判例紹介:面会交流をさせること命じる決定に基づく間接強制の申し立てをしたところ子の年齢などを理由に却下された事例(名古屋高決令和2年3月18日判タ1482号92頁)

事案の概要

 XとYは,平成26年5月に長男であるAの親権者をYと定めて,調停離婚した。その後,非監護親であるXが,監護親であるYに対し,Aとの面会交流を求める調停申立てをした。その後,調停は審判に移行し,平成28年8月,Yに対してXとAを2か月に1回3時間程度面会交流させることを命じる決定がなされた(以下,「本件決定」という。)。
 本件は,Xが,本件決定に基づく面会交流が,平成30年7月に短時間実施されたのを最後に実施されていないとして,本件決定に基づく間接強制決定の申立てをした事案である。

裁判所の決定の要旨

 原審の名古屋家庭裁判所は,本件決定について,面会交流の開始時刻が特定されておらず,Yがすべき給付の内容の特定に欠けるから,同決定に基づく間接強制をすることはできないとして,Xによる間接強制の申立てを却下した。
 これに対し,抗告審は,本件決定から3年以上が経過し,同決定が判断の前提としたAの年齢や成長の段階と現在のそれが大きく異なり,Aが独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有する年齢になって,A自身がXとの面会交流を拒む意向を表明していることなどからすれば,本件決定に基づくYの給付債務(AとXを面会させるという義務)は,Yだけでは実現することができないため,同決定に基づく間接強制決定をすることはできないと判示した。

弁護士のコメント

 非監護審と子との面会交流は,「夫婦の不和による別居に伴う子の喪失感やこれによる不安定な心理状態を回復させ,健全な成長を図るために,未成年者の福祉を害する等の面会交流を制限すべき特段の事情がない限り,面会交流を実施しているのが相当である」(東京高決平成25年7月3日判タ1393号233頁)とされているところです。そのため,非監護審が調停を申し立て,子との面会交流を望んだ場合,裁判所は,特段の事情が無ければ,原則として,監護親に対して子との面会交流を行うよう働きかけます。審判になった場合には,原則として,子との面会交流を命じる決定をすることになります。
 もっとも,裁判所の決定にも関わらず,監護親が子を非監護親に会わせないことが起こり得ます。監護親にも様々な理由があると思いますが,非監護親にとっては納得ができず,何より子の福祉に反することになりかねません。そのため,このような場合に,裁判所は非監護親からの申し立てにより,監護親に対して間接強制の決定を行うことができます。間接強制とは,裁判所で決められた債務を履行しない者に対して,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に金銭的なペナルティを課すことを警告することで自発的な支払を促すものです。面会交流の場合には,面会交流を拒絶するごとに1回○○円という形でペナルティが発生するようになります。非監護親からすれば,裁判所がより強硬的な方法で子との面会をセッティングして欲しいと考えるかもしれませんが,物やお金とは違い,意思を持った人間を強制的に動かすということは,いかに国家権力であったとしても近代自由主義国家においてはできません。そのため,間接強制はその苦肉の策といえます。
 本件事例は,その間接強制の申し立てが却下されたものです。その理由は,上記のとおり,面会交流の目的であった子どもが成長したことにより(小学校6年生→中学3年生),子を監護する者の指示に子が従うような状況ではなくなり,監護者の一存では面会交流を実現するという債務の履行が困難になったということが挙げられています。本件決定の原審であった名古屋家裁のように,面会交流の条件が具体的ではないという理由で間接強制を否定する例はこれまでも多くありましたが,子どもの成長を理由に間接強制を否定するのは比較的珍しい例といえます。類似裁判例としては,大阪高裁平成29年4月28日決定判タ1447号102頁がありますが,これは対象となる子が15歳3か月の高校生の事例でした。
 実務においては,子どもが中学生くらいになると部活動や学習塾などで面会交流の時間がなかなかとれず,また反抗期を迎えて子どもが監護親(又は非監護親)の指示に従わないという話もよく聞くため,実情に即した妥当な判断だと思われます。もっとも,裁判所においては,本当に履行が困難なのか,子どもの意向を慎重に確認する手続きが必要不可欠でしょう。

決定文の抜粋

 …子の面会交流に係る審判は、子の心情等を踏まえた上でされているといえるから、監護親に対し非監護親と子との面会交流を実施させなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないことが原則となる。
 しかしながら、間接強制は、制裁の告知により債務者に履行を動機づけるものであるから、対象となる債務が債務者の意思のみで履行することのできる債務であることが要件となると解されるところ、面会交流を命ずる審判で間接強制が可能なものについては、審判当時の子の心情等を踏まえた上でされているとはいっても、その審判の後、子が成年に達するまで相当長期間にわたることも多く、面会交流に関する事情は審判後大きく変化することが当然に予定されていることが多いといえるし、子が成長して成年に近付くに従い、通常、監護親による給付は子の意向を無視しては物理的に実現することができない性質のものになったり、監護親による給付自体が観念しにくくなったりするといえる。そうすると、面会交流を命ずる審判の後に年数が経過して、子の成長の段階が、上記審判が判断の基礎とし、想定した子の成長の段階と異なるに至ったために、監護親による面会交流に係る給付が、監護親の意思のみで履行することのできない債務となる場合があることは、面会交流を命ずる審判が予定するところであり、この場合において、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、上記審判に基づく間接強制決定を妨げる理由となると解される
 これを本件について検討するに、未成年者は、本件決定当時11歳10か月(小学6年生)であり、本件決定は、その当時の未成年者の心情等を踏まえた上で、頻度及び日時を「2か月に1回、第3土曜日又は日曜日 3時間程度」、受渡場所を「原則としてJRa駅北出口付近」などと定めて相手方が抗告人と未成年者とを面会交流させることを命じているところ、その後、現在までに、3年以上が経過し、未成年者は、満15歳(中学3年生)に達しており、受験をして高校へ進学する直前の時期に至っていると認められる(相手方が原審に令和元年11月16日に提出した書面の記載参照)。
 また、子の監護に関する処分の審判をする場合には、子が満15歳以上であるときは、子の陳述を聴かなければならないとされていること(家事事件手続法152条2項)などによれば、満15歳は、独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有するに至る年齢であるといえるところ、子が満15歳又は高校生となる段階において、監護親が、特定の頻度又は日時に特定の場所において子を非監護親に対して引き渡す方法により面会交流を実施することは、通常想定されない。未成年者が小学6年生で、半年弱で中学校に進学するという段階でされた本件決定が、未成年者が満15歳又は高校進学を目前とする成長の段階に達した後にも、未成年者の意向にかかわらずに実現することができる間接強制が可能な相手方の債務を想定していたとは考え難い。
 そして、未成年者は、本件決定当時において、抗告人に対する強い負の感情を抱き、抗告人と会いたくないと繰り返し述べていた(本件決定の理由の第3の2(9)、(10)参照)ところ、現在、抗告人と最後に会った際の抗告人の言動に嫌な思いをしたことなどを理由に、抗告人との面会交流を拒む意向を表明していると認められる(相手方が原審に令和元年11月16日に提出した書面の記載参照)。
 そうすると、本件決定から年数が経過し、本件決定が判断の前提とし、想定した未成年者の年齢・成長の段階と現在の未成年者の年齢・成長の段階が大きく異なるに至り、未成年者が独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有する段階に達し、現に抗告人との面会交流を拒む意向を表明しているなどの事情によれば、相手方は、未成年者の上記意向にかかわらず、原決定別紙1「面会交流要領」のとおりの面会交流をさせる給付債務を、相手方の意思のみによって履行することができないというほかない。…