免責不許可事由を“正しく恐れる”ために

はじめに

自己破産という言葉には「免責が認められないかもしれない」という不安がつきものです。個人債務者の方にとって、自己破産の目的は「免責(借金の支払義務の免除)」にしかないからです。しかし、統計をみると、個人破産で免責が許可される割合は95〜98%前後ときわめて高く、免責不許可に終わるケースはごくわずかです。これは、不正行為があっても裁判所が事情をくみ取って救済する「裁量免責」という仕組みが機能しているからにほかなりません。​

免責不許可事由と裁量免責

免責不許可事由とは何か

破産法252条1項は、免責が許されない行為(免責不許可事由)を11類型列挙しています。代表的なものを、専門用語を避けてかみ砕いて紹介すると次のとおりです。

  1. 財産隠し・安値処分──ブランド品や車をこっそり友人名義にしたり、タダ同然で売ったり。
  2. ギャンブル・浪費で多重債務──パチンコやFXで借金を膨らませた。
  3. 一部の債権者だけに返済──親にだけ全額返し、他は放置。
  4. 払えないと知りつつ借りる──虚偽の年収を申告してカードローンを作った。
  5. 書類や帳簿の隠滅──通帳のコピーを破棄して出さない。
  6. 裁判所・管財人への非協力──説明を拒む、期日に来ない。
  7. 過去7年以内に破産免責を受けた──短期間で何度も破産を繰り返す。

「こんなこと、ひとつでも当てはまったら終わりなの?」と思うかもしれませんが、実はここからが本題です。

裁量免責があるから免責率は高い

免責不許可事由があっても、裁判所は事情の軽重を見極め「裁量免責」を与える権限を持っています(破産法252条2項)。たとえばギャンブルで作った借金でも、

  • 反省して家計を立て直す努力をしている
  • 家計簿の提出や家計指導に真面目に取り組んでいる
  • 債権者や管財人の調査に全面協力している
    ――といった状況なら、ほぼ免責が許可されるのが実務の運用です。

実際、日本弁護士連合会の事件記録調査などによると、裁量免責によって救済された割合が全免責許可件数の3〜4割を占めるという報告もあります。要するに、免責不許可事由が「ある・ない」よりも、手続きの途中で誠実に振る舞うかどうかが大きく結果を左右するのです。

裁量免責が認められやすい具体例

  • 浪費・ギャンブル型
    • 反省文を提出し、ギャンブル依存治療やFP相談を受ける
    • 家族が家計管理をサポートし再発防止策がある
  • 偏頗弁済(親にだけ返済)型
    • 返済額が少額で、親も「返してくれなくていい」と同意書を出す
  • 収入誤申告型
    • 申立前に自主的に関係書類を開示し、虚偽申告の経緯を説明

これらは「悪質性がさほど高くない」「現在は協力度が高い」という共通点があります。

裁量免責が難しいケース

  • 故意の資産隠し・改ざん(高額な仮想通貨を隠匿 等)
  • 暴力団勢力との結託や犯罪収益の隠蔽
  • 管財人の職務妨害(自宅を封印済なのに勝手に売却 等)

こうしたケースは社会的影響が大きく、裁量免責でも救済されにくいと覚えておきましょう。静岡地方裁判所浜松支部でも、裁量免責が認められなかったケースが年間1~2件くらいはあるようです。

裁量免責を得るための心得

  1. 正直にすべて申告する
    • 「バレなければ得」ではありません。むしろ後で発覚すると裁判所の心証が最悪になります。
  2. 家計簿・通帳・領収書をきちんと出す
    • 「面倒くさい」が命取り。整理しやすいアプリやエクセルを活用しましょう。
  3. 期日や宿題を守る
    • 裁判所や管財人からの連絡を放置せず、提出期限は厳守。
  4. 反省と再発防止策を示す
    • カウンセリング受診やギャンブル依存対策を「行動」で示すと評価が高まります。

まとめ

免責不許可事由のリストは一見おどろおどろしいですが、多くの人が裁量免責のおかげで債務から解放され、生活を再スタートしているのが現実です。ポイントは「隠さない・嘘をつかない・協力する」の三つ。もし心当たりがあっても慌てる必要はありません。早めに弁護士へ相談し、裁判所への説明資料や家計改善策を整えれば、あなたにも十分チャンスがあります。破産手続は“罰”ではなく、再生へのチャンス――その事実を忘れずに、一歩を踏み出してください。
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