住宅ローンと債務整理
自宅を残すなら個人再生
自宅を購入する際、一般的には金融機関で住宅ローンを組み、長期の分割弁済を行います。金利の変動などもありますが住宅ローンとして毎月10万円前後を支払っている方が多いのではないでしょうか。
当然ながら、この住宅ローンは家計にとって大きな負担となります。思いもよらない他の借金の増加や、転職や失業などの収入の減少によって、突然支払いが困難になることも珍しくありません。住宅ローンがある場合に、どのような債務整理の方法があるでしょうか。
債務整理の方法は大きく分けて、①任意整理、②個人再生、③自己破産の3つです。住宅ローンがある場合には、まずローンの残っている自宅を残したいか否かによって、どの方法を選択すべきかが決まります。
自宅を残したい方は、①任意整理、又は②個人再生を選ぶことになります。③自己破産の方法では、自宅は債権者が競売等によって売却することになるため、自宅を残すことができないからです。
住宅ローン以外の借金の条件変更(将来利息のカットや毎月の弁済額の変更)で経済的な更生が可能であれば、①任意整理を選択すべきでしょう。しかし、債務総額が大きい場合には、①任意整理では経済的な更生が不可能場合がほとんどです。その際には、②個人再生手続を選択する以外方法はありません。
個人再生の場合、住宅ローン以外の借金を法律で定めれた基準に従って減額し、3~5年で計画的に弁済をしていきます。住宅ローンを特別扱いすることができるのは、生活の基盤である自宅がなくなれば経済的な再生が困難であると考えられているからです。
個人再生手続のなかで、このように住宅ローンを特別扱いしてもよいという決まりのことを「住宅資金特別条項」といいます。この住宅資金特別条項には、さまざまな条件があるため、個々の事例で同条項が使えるか否かが問題となります。
自宅が差し押さえられている場合は個人再生手続で家を残せるか?
債務の弁済が長らく滞っていると、債務整理前に自宅が差し押さえられている場合があります。このような場合には、個人再生手続における住宅資金特別条項を利用し、自宅を残しながら債務整理ができるでしょうか。
この点、債務者が自宅の所有権を失うことが見込まれる場合には、住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されることはありません(民事再生法202条2項3号)。しかしながら、ただ差押えがなされただけの場合には、再生手続の開始決定によって、差押手続は中止されます(民事再生法39条1項)。また、中止された同差押手続は、再生計画の認可決定が確定すると効力を失います(民事再生法184条)。そのため、申立前に差押えがされただけでは、所有権を失うことが見込まれる場合には該当せず、住宅資金特別条項の利用は可能です。
ただし、税金の滞納による差押えがなされている場合には、例外的に再生手続の開始決定によって差押手続が中止されません。また、再生計画の認可決定が確定しても、効力を失いません。そのため、差押えの原因が税金の場合には、いずれ競売等によって自宅の所有権を失うことが見込まれるため、住宅資金特別条項の利用はできないといえます。
自宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合には個人再生手続で家を残せるか?
民事再生手続では、自宅に住宅資金特別条項の対象となる住宅ローン以外の債権者による抵当権などの担保権が設定されている場合、住宅資金特別条項を利用して家を残すことができないとされています(民事再生法198条1項)。他の債権者による抵当権の実行によって債務者が家を失ってしまえば、住宅資金特別条項を利用する意義がなくなるからです。
なお、仮に住宅ローン以外の債権者による抵当権を抹消することができれば、住宅資金特別条項を利用することができるようになります。抵当権の抹消のためには、同債権者の債務を全額弁済することが必要です。税金であれば自らの資金で弁済しても構いませんが(再生手続における優先債権とされているため)、それ以外の債権の場合には債権者平等の観点から、親族などの第三者に弁済してもらうようにしましょう。
連帯債務の場合には個人再生手続で家を残せるか?
夫婦が連名で借主となって一つの住宅ローンの契約をし、夫婦が共有している自宅に一つの抵当権が設定されている場合、夫だけが個人再生手続をすることがあります。この場合には、住宅資金特別条項を利用して家を残すことができるでしょうか?
夫婦が連名で借主となっている連帯債務の場合(いわゆる「リレーローン」)であっても、住宅資金特別条項を利用することに問題はありません。個人再生手続によって家を残すことが可能です。
ただし、夫婦が個別に住宅ローンの契約をし、夫婦が共有している自宅にそれぞれ個別の抵当権が設定されている場合(いわゆる「ペアローン」)、夫婦がそろって個人再生手続を申し立てるなどの特別な場合を除き、住宅ローン以外の債権者による抵当権などの担保権が設定されている場合に該当するため、住宅資金特別条項を利用することができません。
難しい事例は弁護士にご相談ください
ここまで、住宅ローンがある場合の債務整理の方法、個人再生手続のなかで住宅資金特別条項を利用して自宅を残すことができる場合について解説してきました。しかし、借金問題で悩んでいる方々が抱える個別の事情をすべて網羅することは困難です。難しいご事情がある方は、お近くの弁護士にご相談ください。ゆりの木通り法律事務所では、債務整理のご相談は初回相談料無料です。浜松市や近隣市町村で債務整理についてご相談ご希望お方は、当事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。