無戸籍児問題について

何が問題なのか?

「無戸籍児」問題をご存知ですか?子どもが生まれると,その親権者等には14日以内に「出生届」を提出することが義務付けられています。しかし,様々な事情によって,この届出がされないことがあります。出生届を提出提出しないと,その子は戸籍がない状態,すなわち「無戸籍児」になります。無戸籍児は,別途住民票を作るなど特別な手続をしない限り,あらゆる公的サービスを受けられなくなってしまいます。無戸籍児問題とは,戸籍のない子(もちろん戸籍がないまま成人することもあります)が実生活において様々な不都合を被っている問題をいいます。

無戸籍児が生まれる理由は様々ですが,いわゆる「300日問題」を回避するためにやむを得ず届出をしないという例が多いといわれています。300日問題とは,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子は夫(又は元夫)の子と推定されるという規定(民法772条)があることから,仮に夫(又は元夫)以外の男性の子を出産したとしても,出生届では夫(又は元夫)を父としなければ受理されないという問題です。その際,実父を父とする子の戸籍をつくりたい,又は夫や元夫に子の存在を知られたくないという理由で出生届を提出しないと,その子が無戸籍の状態になります。

夫又は元夫との間の子であることを否定し(嫡出推定を覆し),無戸籍児の戸籍を作成するためにはどうしたらよいでしょうか?現在の法律では,以下で説明するような限られた方法しかありません。このままでは様々な不都合があることは明らかであり,法改正による解決が待たれるところです。(*追記 報道によれば,令和4年2月14日,法制審議会が嫡出推定を見直すよう法務大臣に答申したとのことです。法改正が現実化しつつあります。)

民法772条(嫡出の推定) 
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 

嫡出推定を覆す方法は?

1 嫡出否認

この手続きは,夫又は元夫の方から,生まれてきた子は自分の子どもであることを否認する訴えです。この訴えは,夫が子の出生を知ったときから1年以内と制限されています(民法777条)。また,嫡出否認の訴えは,調停前置主義が適用されるため,訴訟の前に調停の申立てをする必要があります。

この手続の問題は,夫又は元夫の方からしか訴えができないことです。子や妻の方からは訴えができません。夫又は元夫との関係が良好であればよいのですが,そうではない場合の方が多いでしょう。その場合には,別の手続を検討する必要があります。

第774条(嫡出の否認)
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

 

→ 申立書の方法については裁判所のウェブサイトをご参照下さい。

2 親子関係不存在確認

この手続きは,子,母又は父から,当事者間の親子関係が存在しないことを確認する手続きです。調停前置主義の適用があるため,まずは調停の申立てをする必要があります。夫又は元夫が手続に協力的ではなかったり,1年の出訴期間を過ぎたりした場合でも,「特定の事情」がある場合にはこの手続を利用することができます。

特定の条件とは,妻が夫又は元夫の子を懐胎することが不可能であったことが外観上明白であった場合です(最判平成10年8月31日家月51巻4号33頁)。このような場合,改定を推定する基礎を欠くことから嫡出推定を受けないとされています。具体的には,妻が解体した時期に夫が海外赴任していたり,刑務所に収監されていたり,別居して事実上の離婚状態であった場合などが考えられます。

しかし,妻が夫の子を懐胎することが不可能であったことが外観上明白ではない場合には,嫡出推定を排除することができないため,この手続を利用することはできません。仮にDNA鑑定によって父子関係が否定されたとしても,またはDNA鑑定によって父と認められた者と子が同居していたとしても,嫡出推定による父子関係を覆すことはできないとされています(最判平成26年7月17日民集68巻6号547頁,最判平成26年7月17日判時2235号21頁等)。

したがって,出訴期間が過ぎて嫡出否認ができず,また外観上嫡出推定を覆すことができない場合には,現在の日本の法制度においては実の父を戸籍上の父にする手続きが用意されていないということになります。

→ 申立書の書式等は裁判所のウェブサイトをご参照ください。

3 強制認知

この手続きは,子から,実の父に対して,自分に対する認知を求める手続きです。調停前置主義が適用されるため,まずは調停の申立てからはじめることになります。

この手続も,親子関係不存在確認と同様に,妻が夫又は元夫の子を懐胎することが不可能であったことが外観上明白であった場合でなければ申立てができません。出訴期間が過ぎて嫡出否認ができず,また外観上嫡出推定を覆すことができない場合には,強制認知という手段は使えません。

なお,親子関係不存在確認をせずに,先に子から実父に対して認知請求をすることもできます(最判昭和44年5月29日民集23巻6号1064頁,最判平成10年8月31日家月51巻4号75頁等)。これを先回り認知と呼びます。

→ 申立書の書式等は裁判所のウェブサイトをご参照ください。

 

無戸籍児問題Q&A

Q 戸籍が無くても児童手当をもらう方法はありますか?

A 無戸籍であっても,一定の要件を充たせば,お住まいの自治体で住民票を作ることができる場合があります。住民票があれば,児童手当などの各種公的サービスを受けることができます。まずはお住まいの地域の自治体に問い合わせてみましょう。

 

Q 戸籍が無い子を学校に通わせることができますか?

A 戸籍が無くても義務教育を受けることに支障はありません。子どもには教育を受ける権利が日本国憲法において保障されているからです。もっとも,住民票がない場合には,修学通知が送られてきません。無戸籍の子が小学校に入学する年になる前に,お住まいの自治体に相談することをおすすめします。

 

Q 無戸籍の子の問題について,弁護士は何をしてくれますか?

A 弁護士は,あなたから事情を聴いて,無戸籍の子のためにどのような法的手続きをとるべきかを助言することができます。また,調停や裁判ではあなたの代理人となって,手続に参加することができます。

 

浜松市で弁護士をお探しなら、ゆりの木通り法律事務所にご相談ください。どのような問題でも、親切丁寧にご説明いたします。