親権とは何か?
そもそも親権とは、父母の養育者としての立場からくる権利義務の総称のことをいいます。その効力は、子の身上に関する権利義務と、子の財産に関する権利義務に分けることができます。
具体的には、民法に規定されている身上監護権(民法820条)、居所指定権(民法821条)、職業許可権(民法823条)、財産管理権(民法824条)、一定の身分上の行為についての代理権のことを指します。
これらの権利義務は、親権者であることによって認められるものです。財産管理権については、親としての責任を果たしていないと裁判所が認めた場合に、一時的に停止したり、失わせたりすることができます。
離婚によって親権はどうなるか?
父母が婚姻中は、共同して親権を行います。これまでは離婚後の親権は父母のどちらか一方が持つ単独親権制のみでしたが、法改正により、父母の協議によって共同親権か単独親権かを選択できるようになりました。
離婚届を提出する際には、親権のあり方(共同親権か単独親権か)を届け出る必要があります。ただし、改正法の実務では、離婚の合意はできているものの親権の持ち方についてのみ意見が一致しない場合、子の利益を損なわないよう、親権の決定を待たずに離婚の届け出を受理する運用がなされます。この場合、離婚後に改めて父母の協議や家庭裁判所の判断によって、親権のあり方を決めることになります。
当事者間の協議で決まらない場合には、家庭裁判所が子の利益を最優先に考え、共同親権とするか単独親権とするかを判断します。ただし、DVや虐待の恐れがあるなど、共同親権が子の利益を害すると判断される場合には、裁判所は必ず単独親権を命じます。
共同親権となった場合でも、日常の教育や養育に関する事項、また緊急の手術が必要な場合などの急迫の事情があるときは、一方が単独で親権を行使することができます。

裁判所は親権者をどのように決めるのか?
離婚の話し合いで親権が決まらず裁判になったとき、裁判所は子の利益を最優先に考え、父母の双方を親権者とする共同親権か、一方を親権者とする単独親権かを決定します 。裁判所の判断は、改正家族法にもとづき、以下の二段階のステップで行われます。
1.必要的単独親権事由の確認
共同親権とすることで子の利益を害すると認められる以下のケースでは、裁判所は裁量の余地なく、必ず単独親権を定めなければなりません 。
子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合
親子関係に着目した基準です 。父母の一方が子に対して虐待を行うおそれがある場合や、親権停止・親権喪失の事由がある場合など、その親に親権を認めることが子の心身にとって明らかに有害であるときを指します 。
父母が共同して親権を行うことが困難である場合
父母間の関係に着目した基準です 。身体的な暴力に限らず、精神的、経済的、あるいは性的なDVを受けるおそれがあるために、父母が対等に協議を行うことが実質的に不可能な場合がこれに該当します 。
また、暴力等がない場合でも、一方が虚言や重大な約束違反を繰り返したり、他方の親の人格を執拗に否定したりするなど、将来にわたって最低限の協力関係を築くことすら期待できない場合も、共同での親権行使は困難であると判断されます 。
2.共同か単独かを決める総合考慮
上記の事由に当たらない場合、裁判所は父母と子との関係や父と母の関係を踏まえ、子の利益の観点から総合的に判断します 。
父母と子との関係については、これまでの養育状況や子を紛争に巻き込まない配慮ができているかが検討されます 。子の意向や心情も、発達段階に応じて重く受け止められます 。
父と母との関係については、子の利益のために協力できる関係にあるか、またはその構築が期待できるかが検討されます 。友好関係までではなく、親権の共同行使のために最低限必要な意思疎通ができる関係があれば足ります 。
3.運用の新しい視点
これまでの実務では現在の同居実態を重視する継続性の原則が強く意識されてきました。しかし改正法の下では、単に今の生活環境を維持するだけでなく、別居に至った経緯や、それまでの父母それぞれの養育実績などがより正当に評価されることが期待されています。
また、共同親権と単独親権のどちらかが原則であるといった決まりはありません 。裁判所はあくまで個別の事案ごとに、どちらの形が子の利益にとって最善かを最優先に判断します 。
さらに、これまでは親権者の定めと子がどちらの親と暮らすかという問題は密接に結びついていました。新民法では共同親権を選べるようになったため、親権をどちらが持つかと、子がどちらと同居して監護されるかは別個に検討されることになります 。
子の監護に関する新たな選択肢
改正法では、父母の対立の程度や子の状況に合わせて、親権とは別に「監護」のあり方を柔軟に決めることができるようになりました。
1.監護者の指定
監護者とは、親権のうち「子の身の回りの世話(身上監護)」を専門的に行う人のことです 。監護者が定められると、その親は居所の指定や教育、医療といった事項について、親権を持つもう一方の親の同意を得ることなく単独で決定できる包括的な権限を持ちます 。
共同親権とする場合でも、父母間の対立が激しく、日常的な判断に支障が出るようなケースでは、この監護者を定める必要性が高くなります 。
2.監護の分掌
監護の分担には、大きく分けて「期間」で分ける方法と「事項」で分ける方法の2種類があります 。
期間の分掌 平日は母、週末は父というように、一定の期間ごとに交代で監護を行う方法です 。これを行うには、父母が緊密に協力し合える関係であることや、住居が近く移動が子の負担にならないことなどが条件となります 。
事項の分掌 「教育に関する事項は父」「医療に関する事項は母」というように、特定の分野ごとに監護権限を分ける方法です 。これにより、分野ごとに責任を持って単独で判断できるようになります 。
3. 親権行使者の指定
「特定の学校への進学」や「重大な手術の実施」など、ピンポイントで意見が対立している事項について、裁判所がどちらか一方を「その事項の決定権者」として指名する制度です 。
監護者の指定が「身上監護全般」という広い権限を与えるのに対し、こちらは特定の具体的な問題だけを解決するための仕組みです 。これにより、親権自体は共同のまま、どうしても決まらない1点だけを裁判所に決めてもらうことが可能になります 。
制度を使い分けるポイント
これらの制度は、父母がどの程度協力できるかによって使い分けられます。
特定の事項(進学先など)だけが決まらない場合は、その事項のみの親権行使者を指定すれば足ります 。一方、日常生活全般で対立が絶えず、子と同居する親がスムーズに養育を行えないような場合は、監護者を定めることが検討されます 。
改正法の下では、一方がすべてを決める「単独親権」か、すべてを話し合う「共同親権」かという二択ではなく、子の利益のために最も適した分担の形をオーダーメイドで設計することが求められています 。

離婚原因は親権者の指定に影響するか?
不貞やDVなどの離婚原因は、あくまで子の福祉という見地から判断されます。不貞行為そのものは、子の養育能力に直結しないと判断されるケースが多いですが、DVが子の面前で行われていた場合には、子の心身に悪影響を及ぼす児童虐待の一態様とみなされ、親権判断において極めて重要な考慮要素となります。特に、暴力や虐待のリスクがある場合は、共同親権は認められず、単独親権となります。
親権の内容を後から変更することができるのか?
離婚時に決めた親権のあり方は、その後の事情の変化により、家庭裁判所の調停や審判によって変更することができます。単独親権から共同親権へ、あるいはその逆の変更も可能です。
親権者の変更においては、既存の監護実績を踏まえた上で、変更することが子の利益のために真に必要であるかどうかが検討されます。父母の合意があったとしても、必ず家庭裁判所の手続きを経る必要があります。
単独親権者が死亡した場合には誰が親権者となるか?
単独親権者が死亡しても、自動的に他方の親が親権者になることはありません。この場合、原則として未成年後見が開始されます。
もし、生存している親が親権者になりたいと希望する場合には、裁判所に対して親権者変更の申し立てを行う必要があります。裁判所は、その親が親権者となることと、第三者が未成年後見人となることのどちらが子の福祉に資するかを検討して決定します。
