有責配偶者とは何か?

 夫婦関係の破綻の主たる原因をつくった配偶者を「有責配偶者」といいます。例えば,一方当事者が不貞を行い,それが原因となって夫婦関係が破綻した場合には,その一方当事者が有責配偶者となります。一方当事者に家庭内暴力(いわゆるDV)がある場合なども典型的です。
 注意しなければならないのは,多少の性格上の欠陥や暴言などでは,有責配偶者とはされないことです。多少の欠陥は人であれば誰もが持ちうると考えられるからです。また,一方当事者だけに責任を負わせることのできない精神疾患や性的不一致がある場合にも,それが離婚事由になるとしても,一般的にはそれだけで有責配偶者となることはありません。

有責配偶者から離婚請求はできるか?

 有責配偶者からの離婚請求とは,例えば不貞をした夫が不貞相手と再婚するために妻に対して離婚を請求するという場合のことをいいます。このような夫の行動は,一般的な社会常識や価値観からは非難されるべきものです。特に,この夫婦間に幼い子がおり,妻に資力がない場合には,一層その非難の度合いが高まるのではないでしょうか。また,このような夫の行動は,法律婚制度を脅かすものと捉えられていました。そのため,以前は(といっても,かなり昔の話ですが…),裁判所がこのような有責配偶者からの離婚請求を認めることは一切ありませんでした。
 しかしながら,現在は,女性の社会進出や婚姻形態の多様化などの社会情勢の変化に応じ,一定の条件があれば有責配偶者からの離婚も限定的に認めるという扱いになっています(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)。

最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁抜粋 

 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。
 そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。

 

有責配偶者からの離婚請求が認められる条件

 最高裁判所は,「有責配偶者からされた離婚請求であっても,夫婦がその年齢および同居期間と対比して相当の長期間別居し,その間に未成熟子がいない場合には,相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれる等離婚請求を容認することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り,有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない」と述べています(上記最大判)。
 この最高裁判例が出てからは,有責配偶者からの離婚請求であっても,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か(相当の長期間の別居の有無),②その間に未成熟の子が存在するか否か(未成熟子の存否),③相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれるか否か(苛酷状況の有無)を確認し,この3要件を中心に,有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情がない場合には例外的に離婚が認められるというのが実務の運用となっています。
 なお,この3つの要件は,それぞれ必ずしも独立したものではなく,最終的には夫婦間の様々な事情を総合的に考慮して,離婚を認めることが信義則上許されるか否かという問題になると考えられます。

関連判例の紹介

 別居期間2年4か月,7歳の未成熟子がいる夫婦で,有責配偶者である夫が妻の潔癖症を理由に離婚請求をした事案(最判平成16年11月18日民集215号657頁)

 原告(夫)と被告(妻)は,平成6年に婚姻し,平成8年に長男が生まれた。被告はいわゆる潔癖症で,原告は次第に被告との生活に不満を覚えるようになった。原告は,平成11年ころから別の女性と交際を始め,翌12年に交際の事実を告げて被告に離婚を求めた。しかし,被告は,7歳の長男を養育する上で経済的に困窮するおそれがあるとしてその要求を拒絶した。その後,被告の潔癖症はますますひどくなり,これに耐えかねた原告は,平成13年6月から家を出て,被告と別居することになった。そして,原告は,被告が病的な潔癖症のため,自宅で気が休まらず,婚姻関係は既に破綻し,婚姻を継続し難い重大な事由があると主張して,離婚訴訟を申立てた。1審は有責配偶者である原告からの離婚請求は認められないとして訴えを棄却し,2審は被告の潔癖症が夫婦関係悪化の一因であったとして原告の訴えを認めた。これに対して最高裁は,次のように述べて原告の請求を棄却した。 

最判平成16年11月18日民集215号657頁抜粋 

 民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において,当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては,有責配偶者の責任の態様・程度,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・経済的状態,夫婦間の子,殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係等が考慮されなければならず,更には,時の経過とともに,これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し,また,これらの諸事情の持つ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである。
 そうだとすると,有責配偶者からされた離婚請求については,<1>夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か,<2>その間に未成熟の子が存在するか否か,<3>相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否か等の諸点を総合的に考慮して,当該請求が信義誠実の原則に反するといえないときには,当該請求を認容することができると解するのが相当である(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。
 上記の見地に立って本件をみるに,前記の事実関係によれば,<1>上告人と被上告人との婚姻については民法770条1項5号所定の事由があり,被上告人は有責配偶者であること,<2>上告人と被上告人との別居期間は,原審の口頭弁論終結時(平成15年10月1日)に至るまで約2年4か月であり,双方の年齢や同居期間(約6年7か月)との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと,<3>上告人と被上告人との間には,その監護,教育及び福祉の面での配慮を要する7歳(原審の口頭弁論終結時)の長男(未成熟の子)が存在すること,<4>上告人は,子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり,離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されること等が明らかである。
 以上の諸点を総合的に考慮すると,被上告人の本件離婚請求は,信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず,これを棄却すべきものである。


 本判決は,上記最高裁判決の基準判決(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)の3要件を中心に,有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否かを検討しています。そして,第2審(控訴審)は,婚姻関係破綻の責任の一端が被告の潔癖症などにもあるとして上記3要件を緩和した判断を示したが,本判決では仮に被告に責任の一端があるとしても,その内容からみて,本件婚姻関係破綻の責任が専ら又は主として原告にあるとの認定を行いました。
 このように,ひとくちに「有責配偶者」といっても,離婚請求が認められるか否かは個別の事案に応じた総合的な検討が必要になります。有責配偶者の離婚請求についてお悩みの方(離婚請求を考えている方も,離婚請求をされた方も)は,いちど専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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