親権とは何か?

 そもそも「親権」とは何でしょうか?法律上,親権とは,父母の養育者としての立場からくる権利義務の総称のことをいいます。その効力は,子の身上に関する権利・義務と,子の財産に関する権利・義務に分けることができます。そして,具体的には,民法という私法の一般法に規定されている身上監護権(民法820条),居所指定権(民法821条,懲戒権(民法822条),職業許可権(民法823条),財産管理権(民法824条),一定の身分上の行為についての代理権のことを指します。
 これらの権利・義務は,いずれも親権者であることによって認められるものであり,ひとつひとつを分けて複数の者に与えることはできません。養子縁組などの特別な場合を除き,自ら親権を放棄することもできません。いわゆる「勘当」や「親子の縁を切る」という法律上の制度はありません。もっとも,財産管理権については,親としての責任を果たしていないと裁判所が認めた場合には,それを一時的に停止したり(親権停止),又は失わせたり(親権喪失)することができます。

民法818条(親権者)
 
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
 
 

離婚によって親権はどうなるか?

 親権は,父母が婚姻中は共同して行います(民法818条3項)。父母が離婚をする際には,協議離婚であっても裁判離婚であっても,父母の一方を親権者と定めなければいけません(単独親権制)。役所に提出する「離婚届」には,親権者をどちらにするか記載する項目ががあり,未成年子がいるにもかかわらずその欄を空欄にして提出すると受付係が受理すらしてくれません。そのため,離婚については合意できていても,親権者をどちらにするのかを決めることができない限り,離婚をすることはできないのです。一般的に,当事者間の協議により離婚ができない場合には,当事者の一方が調停を申し立て,調停が不成立となった場合にはさらに裁判で離婚をすることになります。そして,親権について争う離婚裁判では,裁判官が一方当事者を親権者として指定します。
 離婚後に親権者として指定されなかった親は,子の「親」であることには変わりがありませんが(子の戸籍にも父母の氏名が残ります),親権者としての権能を持たないことになります。そのため,親権者とならなかった親は,子の居住地や進学先など,子の重要な場面において法的な発言権がありません。また,子の面会交流が認められたとしても,一般的にその回数は限られたものであり,長期間にわたって一緒に生活することは叶いません。

民法819条1項2項
 
1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
 
 

裁判所は親権者どのように決めるのか?

 離婚の話し合いにおいて親権者を決めることができず,裁判になったとき,裁判所は「子の福祉」を基準として親権者を定めます。「子の福祉」とは,子どもの幸福と言い換えてもいいかもしれません。どちらの親の下で子を養育することがその子のためになるのかを検討するのです。そして,検討の基礎となるのは,父母双方の事情(監護に関する意欲と能力,健康状態,経済的・精神的家庭環境,居住・教育環境,子に対する愛情の程度,実家の資産,親族・友人等の援助の可能性など)や,子の側の事情(年齢,性別,兄弟姉妹関係,心身の発育状況,従来の環境への適応状況,環境の変化への対応性,子自身の意向など)であるといわれています。これらを比較衡量しながら,裁判所が子の福祉を基準として親権者を指定するのです。
 なお,裁判所の決定を分析すると,①特段の事情がない限り既に監護を続けている監護者が引き続き監護すべきだという「現状尊重の基準」,②乳幼児については特段の事情がない限り母親の監護養育が優先すべきだとする「母親優先の基準」,③無理のない方法で子の意思が明確に表明されている限りその意思を尊重するという「子の意思尊重の基準」,④兄弟姉妹は可能な限り同一人によって監護されるべきであるとする「兄弟姉妹不分離の基準」など,裁判所の考え方の指針を読み取ることができます。もちろん,これらの指針は絶対的なものではなく,子の福祉の観点からそれを覆すだけの事情があれば異なる結果になることもあり得ます。

離婚原因は親権者の指定に影響するか?

 離婚の原因が他方当事者の不貞やDVだった場合,これらの事情は親権者指定にどの程度影響するでしょうか?この点,裁判所は,子の親権者をいずれの親にするかは,あくまで「子の福祉」という見地から総合的に判断するべきものであって,あくまで子の健全な育成にとってどちらの親が親権者として適切であるかという範囲でしか離婚原因は影響を及ぼさないと考えられています。例えば,不貞行為は道徳的には非難されるべきものですが,子の養育においてそれが影響するとは一般的には考えられていません。他方で,DVが子の面前で行われていた場合には,当然子の福祉という見地から重要な考慮要素となるでしょう(面前DVは児童虐待の一態様とされています)。

親権者を後から変更することができるのか?

 未成年子の父母が離婚して,一方が親権者となった場合でも,その後の事情の変化により他方の親が親権者となる方が適当な場合があります。そのような場合,家庭裁判所の調停・審判によって親権者の変更をすることができます。父母の協議によって既に合意があったとしても,必ず家庭裁判所の調停又は審判を申し立て,家庭裁判所の調査などを経た上でなければ親権者の変更は認められません。
 では,父母に争いがあった場合,裁判所はどのような基準で親権者変更の可否を決めるのでしょうか?民法819条6項に「子の利益のため必要があると認めるときは」との記述があるように,「子の福祉」が大きな基準となることは親権者指定の場合と同様です。もっとも,親権者変更の場合は,既に指定されていた親権者による監護の実績があるため,父母双方の事情の相対的な比較衡量だけではなく,父母の一方による実際の監護の実績を踏まえて,変更すべき事情の有無を検討することになります。

民法819条6項
 
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
 
 

単独親権者が死亡した場合には誰が親権者となるか?

 未成年子のいる父母が離婚して,一方が親権者となったものの,同親権者が死亡した場合は誰が親権者となるのでしょうか。法律上,単独親権者が死亡しても,自動的に,親権者ではない親が親権者になることはありません。単独親権者が死亡した場合には,未成年後見が開始するのが原則となります(民法838条1号)。地方自治体などが申立人となり,裁判所が親族や第三者を未成年後見人として指定します。未成年後見人は,親権者と同様に未成年者の身上監護と財産管理を行います。
 もし,単独親権者が死亡して,親権者ではない親がその子の親権者になりたいと希望する場合には,裁判所に対して親権者変更の申し立てを行う必要があります。この場合,裁判所は親権者の変更を認めるか,第三者を未成年後見人とするか,どちらが子の福祉に資するか検討することになります。

民法838条

後見は、次に掲げる場合に開始する。

一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
 
 
参考文献:富永忠祐編『この監護をめぐる法律実務』2008,新日本法規