遺留分とは何か?

 遺留分は,一定の法定相続人に対して,法定相続分の一部を保障するものです。被相続人は,遺言によって自分の財産を死後誰に承継させるのかを自由に決めることができますが,遺留分はその例外となります。
 例えば,被相続人に配偶者と子が一人いた場合,配偶者と子が相続人となり,それぞれの法定相続分は配偶者と子が2分の1ずつとなります。このような関係性において,被相続人が遺言によって財産を第三者に遺贈する旨を定めた場合,配偶者と子は遺言が無ければ相続するはずの財産を相続することができなくなってしまいます。このような被相続人の遺贈(遺言による贈与),配偶者と子の遺留分(この場合は遺産の4分の1ずつ)を侵害するものなので,配偶者と子は自らの遺留分の侵害された相当額の金銭を受贈者である当該第三者に対して請求(「遺留分侵害額請求」といいます)することができます(民法1046条1項)。
 なお,遺留分権利者であっても,その権利を行使するか否かは当事者の自由です。そのため,法律で決められた期限までに遺留分侵害額の請求をしない場合,自然にその権利は消滅してしまいます。そして,被相続人の生前に相続人が自分の遺留分の権利を放棄するためには,裁判所の特別の許可が必要になります(民法1049条)。

 
民法1046条1項(遺留分侵害額の請求)
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
 

遺留分の帰属と割合

 遺留分は,法定相続人のうち,兄弟姉妹以外の者に帰属ずるとされています。つまり,遺留分侵害額請求ができるのは,被相続人から見て兄弟姉妹以外の相続人ということになります。
 また,遺留分権利者に認められる遺留分の割合は,直系尊属(被相続人の親)のみが相続人である場合には法定相続分の3分の1,それ以外の場合は法定相続分の2分の1とされています(民法1042条1項2項)。
 例えば,被相続人に配偶者と子どもが3人いた場合,それぞれの法定相続分は配偶者2分の1,子どもが各6分の1ずつとなります。そのため,遺留分の割合は,民法1042条1項2項に基づき,配偶者が4分の1,子どもが各12分の1ずつとなるわけです。

 
民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)
1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
① 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
② 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
 
 

遺留分を算定するための財産の価額

 遺留分権利者の具体的な遺留分は,「遺留分を算定するための財産の価額」に上記遺留分割合を乗じることによって算出することができます。
 また,上記「遺留分を算定するための財産の価額」は,①被相続人が相続開始時に有していた財産の価額に,②贈与した財産の価額を加えた額から,③被相続人が相続開始時に有していた債務の価額を控除することによって計算します(民法1043条1項)。
 そして,②「贈与」については,相続開始の1年前になされたもの(相続人については相続開始の10年前になされたもの)だけが対象になります。ただし,被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,この期間制限が無くなり,無制限で「遺留分を算定するための財産の価額」に加算することができます。

民法1043条(遺留分を算定するための財産の価額)
1 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
 
民法1043条
1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
 

複数の贈与や遺贈がある場合

 それでは,被相続人が複数の者に贈与や遺贈をしていた場合,遺留分侵害額として誰がどれだけの金銭を負担するのでしょうか。
 この点については,民法1047条の定めに従い,次の順番で,それぞれ贈与又は遺贈を受けた金額を限度として,負担をすることになります。
 まず,受遺者と受贈者がいる場合には,受遺者が先に負担します。「受遺者」とは,遺言によって財産の贈与を受けた者をいい,「受贈者」とは被相続人の生前に贈与を受けた者のことをいいます。受遺者が遺留分侵害額全額を負担するだけの贈与を受けている場合には,受贈者に対する請求はできないということになります。
 次に,受遺者が複数いる場合や贈与が同時になされた場合には,受遺者又は受贈者が贈与の目的の価額の割合に応じて負担します。例えば,遺贈者としてAとBがおり,Aが1000万円の土地,Bが500万円の土地をそれぞれ遺贈された場合,AとBは2対1の割合で遺留分侵害額を負担することになります。
 最後に,受贈者が複数いる場合には,時系列的に遅い贈与から先に負担します。例えば,受贈者としてCとDがおり,Cが被相続人が死亡する1か月前,Dが3か月前にそれぞれ贈与を受けていた場合,時系列的に遅いCから先に遺留分侵害額を負担することになります。

遺留分侵害額請求の時間制限

 上記のとおり,自分の遺留分を侵害された遺留分権利者は,受遺者又は受贈者に対して,遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができます。これは,遺留分権利者が,遺留分の主張をすれば,受遺者等に対する金銭債権が発生するということです。相続は家族の問題という色彩が強く,また必ずしも遺留分による保証を必要としない場合もあるため,その権利行使は個々の遺留分権利者に委ねられているのです。
 そして,遺留分侵害額請求は,相続の開始または遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年以内にする必要があります。この期間を経過すると,遺留分侵害額請求をすることができる権利が時効によって消滅することになります(民法1048条)。
 なお,「相続の開始」を知ったときとは,被相続人が死亡したことを知ったときのことを,「遺留分を侵害する贈与又は遺贈」を知ったときとは,遺言の存在や贈与契約の存在を知ったときのことを意味します。

 
民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
 

困ったら弁護士に相談を

 遺留分は,相続問題のなかでも非常に複雑な問題を抱える分野の一つです。非常に厳しい期間制限がある一方,何を遺留分を算定するための財産の価額に含めるか,又は財産の評価はどのように行うかなど,頭を悩ませることは非常に多いです。遺留分について悩んだら,期間制限が経過する前に,まずは弁護士にご相談下さい。難しい制度を分かり易く丁寧にご説明いたします。