遺産分割とは?

 相続は,被相続人が死亡した時点で始まります(民法882条)。相続人は,このような相続の効力として,相続開始の時点から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条1項)。

 相続人が複数人いる場合,相続財産はぞれぞれの相続人の法定相続分に応じて「共有」になります(民法898条)。遺産分割とは,相続人間で共有している個々の相続財産について,各相続人の単独所有にするなど,終局的な帰属を確定する手続です。

(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。
 
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
 
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

遺産分割の対象は?

 遺産分割の対象となる相続財産は,①相続開始時に存在し,かつ②分割時にも存在する,③未分割の財産です。そのため,被相続人が死亡する直前に推定相続人によって被相続人名義の預金口座から払い戻されて費消されてしまった現金については,当該相続人が同現金相当額を遺産に戻すという合意をしない限り,遺産分割の対象に含めることはできません。また,被相続人が死亡後,遺産分割の時点までに相続財産が処分された場合も,相続人全員が「処分された財産を遺産に含める」という合意をしない限り,遺産分割の対象に含まれません(民法906条の2)。

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 さらに,法律上当然に各相続人に法定相続分に応じて帰属する可分債権(貸金返還請求権や損害賠償請求権など,預金を除く金銭債権)は,共同相続人全員の合意がない限り,遺産分割の対象に含まれません。
 預金については,可分債権の一つなので,従前は原則として遺産分割の対象に含まれないと考えられていましたが(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁),金融機関における実際の相続実務(相続人全員の合意がない限り払い戻しができないという取り扱い)や相続人間の公平に鑑み,遺産分割の対象とするという判例変更がありました(最大決平成28年12月19日家判9号6頁)。

 なお,預貯金関連では,法改正により,民法909条の2に共同相続人が遺産に属する預貯金のうち相続分の3分の1については,相続人の生活を保護するという趣旨から,払戻しができるような規定が新設されました。

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

遺産分割はどう進める?

 遺産分割の手続としては,①遺言による指定分割,②協議による分割,③調停による分割,④審判による分割があります。

 まず,①「遺言による指定分割」とは,被相続人が遺言によって遺産分割の方法を定めている場合です(民法908条)。遺言に「○○の財産は**に相続させる」との文言がある場合,原則として遺産分割方法の指定であると解釈されます。特定の相続人の遺留分を侵害するような遺言も有効であると考えられています。

 次に,②「協議による分割」は,共同相続人が話し合って分割方法を決める場合です。共同相続人は,被相続人が遺言で分割を禁じた場合(民法908条)を除き,いつでも協議で遺産の分割ができます。協議の成立には,共同相続人全員の合意が必要です。全員の合意がある限り,分割の内容は共同相続人の自由に任されており,特定の相続人の取得分を「0」とする分割協議も有効です。

 そして,③「調停による分割」は,共同相続人による協議がまとまらないときに,家庭裁判所の調停手続を利用して遺産分割をする場合です。調停手続は,調停委員を交えて裁判所において協議をするという手続なので,「協議による分割」の延長として考えることができます。調停では,当事者が顔を合わすことなく,調停委員が当事者の言い分を聞き,それぞれの言い分を法律に基づき整理してくれるため,話し合いがまとまりやすいという特徴があります。家庭裁判所のウェブサイトに申立書や添付書類の説明がありますのでこちらもご参照ください。

 最後に,④「審判による分割」は,裁判官が一切の事情を考慮して,相続財産を分割します。いきなり審判を申し立てることもできますが,多くの場合には,職権で調停手続に付されます。裁判所が,家庭内の問題について,当事者による話し合いを重視しているからです。そして,調停ががまとまらなかった場合に,ようやく審判に移行することになります。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
 

遺産分割の方法は?

 遺産分割の方法には,①現物分割,②換価分割,③代償分割といったものがあります。

 ①「現物分割」とは,実際に存在する財産を,その形態を変えることなくそのまま共同相続人に分配する方法です。最もシンプルで,一番利用される方法だと思われます。民法は,遺産分割の方法について明文で規定していませんが,現物分割が遺産分割の原則的方法であると考えられています。

 次に,②「換価分割」とは,遺産を売却して金銭に換価して,その価値を分割する方法です。現物分割が困難な場合や,現物分割では価値を減ずるような場合に選択されます。また,相続分の比率を調整する目的で遺産の一部を売却して金銭に変え,現物分割で生じた過不足を修正することもあります。

 最後に,③「代償分割」とは,遺産の現物を特定の相続人に相続させ,同相続人が他の相続人に対して代償となる金銭を支払う(債務を負担する)方法です。審判分割では,特別な事情が無ければ代償分割を行うことはできませんが(家事事件手続法195条),協議分割や調停分割では自由に行うことができます。例えば,相続財産である不動産に居住している相続人がいる場合に,その不動産を同相続人に相続させるための方法として代償分割が行われます。

 遺産分割には,様々な法律上の議論が必要となります。相続人間で納得のいく遺産分割を行うためには,法律上の問題点をクリアにしておくことが大切です。遺産分割の必要がある方は,ゆりの木通り法律事務所にご相談ください。弁護士が必要な手続について丁寧にご説明いたします。