年金分割とは何か?

 年金分割とは,夫婦が離婚したときに,婚姻期間中の保険料納付記録を夫と妻の間で分割することができるという制度です。
 制度の背景には,夫婦間における支給年金の格差の問題があります。夫婦共働きで夫婦間の収入に差がない場合には問題になりませんが,多くの家庭では夫の収入が妻の収入を上回っており,妻はパートや専業主婦で家事や育児に従事しているのが実情です。夫婦の老後,老齢基礎年金(いわゆる「一階部分」)は夫と妻にそれぞれ支給されますが,厚生年金報酬比例部分(いわゆる「二階部分」)は,被保険者のみに支給されることから,夫婦の年金受給額に大きな格差が生じます。
 婚姻が継続しており家計が一つであれば問題ありませんが,離婚していた場合には妻の年金受給金額が極めて低廉となり,収入を犠牲にして家事や育児に従事していた努力が報われません。そこで,婚姻期間中に正規社員の夫を支えた妻の貢献度を年金額に反映させ,夫婦2人の老後の生活を支える年金が,離婚してもそれぞれの生活を支えることができるように,年金分割の制度が存在するのです。

年金分割には二つの種類がある

 年金分割には,「合意分割」と「3号分割」という二つの制度が存在します
 合意分割とは,夫と妻が年金を分割することと,その分割割合について合意し,離婚時に保険料納付済額を分割(限度は2分の1)することができるものです。合意ができない場合には,夫婦の一方が家庭裁判所に申立てをすることで(多くの場合には離婚調停や離婚訴訟と同時に行います),裁判所に案分割合を決めてもらうこともできます。
 3号分割とは,正社員(多くの場合は夫)の被扶養者(厚生年金保険の被保険者または共済組合の組合員の被扶養配偶者で,20歳以上60歳未満の方が対象)について,相手の被扶養者となっていた期間(これを「第3号被保険者期間」といいます)について,扶養者が負担した保険料は被扶養者が共同して負担したものであるという考え方の下,離婚時に被扶養者が年金事務所に請求することがで強制的に扶養者の厚生年金の保険料納付済額の2分の1を分割することができる制度です。

何が分割されるのか?

 年金分割は,上記のとおり,支給される年金そのものが分割されるわけではありません。よくある勘違いですが,例えば年間100万円の年金を受給することになった夫が,年金分割の結果,妻に対してそのうちの50万円を支払わなければならないという制度ではありません。年金分割で分割されるのは,あくまで婚姻期間中の厚生年金に関する「保険料納付記録」のみです。誤解を恐れず大雑把にいえば,婚姻期間中に支払った厚生年金の保険料を足して2で割り,将来の受給する年金の金額に反映させる制度です。
 日本の年金制度は多重構造となっており,1階部分に国民年金(基礎年金),2階部分に厚生年金・旧共済年金,3階部分に厚生年金基金,確定給付企業年金,確定拠出現金,国民年金基金などがありますが,このうち年金分割が問題となるのは2階部分の更生年金保険(の保険料納付記録)のみです。3階部分は離婚時の年金分割で問題となります。
 以上のとおり,年金分割は対象が非常に限定的であり,基本的に国民年金のみ加入している自営業の方の場合には年金分割は対象外です。

 

合意分割の方法は?

 合意分割の方法で年金分割するためには,まず「年金分割のための情報通知書」を取り寄せる必要があります(公正証書で年金分割に関する条項を定める場合には同通知書が不要です)。これは,最寄りの年金事務所で所定の手続きをすることで,誰でも入手可能です。50歳以上の方は,希望すれば,「年金分割を行った場合の年金見込額のお知らせ」を受け取ることもできます。これを併せて取寄せれば,年金分割を行った場合に受け取れる金額が分かるので便利です。
 当事者間で年金分割について協議がまとまっている場合には,年金事務所において「年金分割の合意書」を作成しましょう。書類のひな型は年金事務所で入手可能です。
 当事者間で協議がまとまらない場合には,離婚調停のなかで年金分割の取り決めをしましょう。調停がまとまらない場合には,離婚訴訟の付帯処分として年金分割に関する取り決めをするよう裁判所に求めることができます。いずれの場合にも,裁判所に「年金分割のための情報通知書」を提出する必要があります。裁判では,分割割合は特別な事情がない限り2分の1となります。調停又は判決にて年金分割の分割割合が決まった際には,調停調書又は判決書を年金事務所に提出することで年金分割の手続が可能です。その際には他方当事者の協力は不要です。
 なお,年金分割には期間制限があり,離婚後2年以内に行う必要がありますのでご注意ください(相手方死亡の場合には,死亡の日から1か月以内になります)。

3号分割の方法は?

 3号分割は,上記のとおり,離婚後に被扶養者であった者が単独で手続をすることができる手続です。案分割合は2分の1と法定されています。夫婦で案分割合を話し合う必要はありません。離婚後,所定の資料を持って年金事務所で手続を行いましょう。なお,3号分割にも期間制限があり,離婚2年以内に手続をする必要があります(相手方死亡の場合には,死亡の日から1か月以内になります)。

 

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