制度の概要

 個人再生には,民事再生法に基づく「住宅資金貸付債権に関する特則」という住宅ローンに関する特別な手続があります。債務整理手続では,すべての債権者が平等に扱われることが大原則ですが,人の生活の基盤となる住宅に関する債権については,債務者の経済的更生のために特別扱いを認めようという手続です。

 具体的には,債務者が抱える住宅ローン債権のうち,法が定める一定の条件を満たすものを「住宅資金貸付債権」として,再生計画内で同債権について「住宅資金特別条項」を付けることで,住宅ローンの返済を続けることを可能にするというものです。住宅ローンの返済を続けることができるということは,その住宅にそのまま住み続けることができるということです。これは,債務者にとっては,非常に大きなメリットといえます。

 それでは,どのような債権が「住宅資金貸付債権」として,再生計画のなかで「住宅資金特別条項」を付けることができるのでしょうか?

対象となる「住宅」は?

 住宅資金特別条項の適用対象となる「住宅」は,次の条件を満たす建物であることが必要です(民事再生法196条1項)。

1 個人である再生債務者が所有している建物であること

 建物は,一戸建てでもマンション等集合住宅でも構いません。個人の所有とは,単独で所有している場合の他,共有であっても構いません。夫婦で共有する建物について,一方の住宅ローンの返済が継続できなくなった場合にも適用されます。なお,そのような場合には互いに連帯保証人となっている場合が多いので,夫婦で個人再生手続の申立てをすることが多いと思われます。もちろん,夫婦で同時に個人再生手続をすることも可能です。

2 再生債務者自身の居住の用に供する建物であって,その床面積の2分の1以上に相当する部分がもっぱら自己の居住の用に供されていること

 投資用のマンションや事業用の建物は,住宅資金特別条項の適用となる「住宅」には当たりません。これは,制度の目的が債務者の生活の基盤となる住宅を維持することで同人の経済的更生を促すことにあるからです。

 個人事業主が自宅の一部を事業のために利用しているような場合は,事業で使用している部分の床面積が全体の2分の1未満であれば住宅資金特別条項の適用がある「住宅」とみなされます。

 二世帯住宅や住居の一部を賃貸している場合にも,当該部分が全体の2分の1未満であれば適用があります。なお,転勤等で一時的に当該建物に居住していなくても,生活の本拠である住居として使用する目的があれば,「住居の用に供する建物」と認められます。

1 上記1・2の条件を満たす建物が2つ以上ある場合には,これらの建物のうち,再生債務者が主として居住の用に供する1の建物に限られる。

 このような例は非常に稀であると思いますが,二拠点生活をしている方の場合には,「主として居住の用に供する」建物一つのみが対象になります。居住実態を総合的に検討しますので,資産価値が高い方を選ぶなどの恣意的な選択はできません。自宅と別荘がある場合には,自宅のみが対象となるということです。

対象となる「債権」は?

 住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」とは,次の条件を満たすことが必要です(民事再生法196条3号)。

1 住宅の建設もしくは購入に必要な資金(住居の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む),又は住宅の改良に必要な資金の貸付にかかる再生債権であること

 ここでいう「住居の建設もしくは購入に必要な資金」とは,住宅自体の取得に要する資金の他,住宅の敷地である土地も含みます。住宅ローンの借り換えが行われた場合には,新たな住宅ローンがその対象となります。

 住宅の購入資金として借り入れたものが別の用途に流用されている場合(例えば,自動車の購入や事業資金),流用した金額が借入金額のうち僅かな割合であれば,対象とする余地があると思われます。

2 分割払いの定めがある再生債権であること

 この制度の趣旨は,住宅ローンの返済が滞り,抵当権の実行によって債務者が住宅を失うことを防ぐことにありますので,一括払いの再生債権には適用がありません。もっとも,住宅を一括で購入できるような方は,個人再生などそもそも必要ないでしょうが…。

3 当該再生債権または当該再生債権を保証会社が代位弁済した場合の求償権を抵当権が被担保債権としていること

 住宅ローンを組んだ金融機関が住宅に抵当権を設定している場合はもちろんのこと,保証会社が連帯保証人となってその求償権を被担保債権として住宅に抵当権を設定している場合も対象となります。ご自宅の登記を確認し,抵当権者が誰になっているのかを確認してみてください。

4 抵当権が自宅に設定されていること

 この制度は,抵当権の実行により債務者が自宅を失うことを避けるためのものですから,当然のことながら自宅に抵当権が設定されていない場合には対象外となります。稀な例ですが,抵当権が自宅の敷地のみに設定されている場合にもこの制度の対象外になります。

例外的に制度の適用がない場合

 上記の条件を満たしても,例外的に住宅資金特別条項の対象外とされる場合があります。

1 住宅等について他の抵当権が設定されている場合(民事再生法198条1項ただし書)

 住宅に,住宅ローンとは関係のない債権についての抵当権が設定されている場合,この制度の対象外になります。住宅ローンとは関係のない債権は,再生計画において住宅資金特別条項を定めてもその効果が及ばないため,結局抵当権の実行がなされることになってしまうからです。

 もっとも,後順位抵当権が実行されても,無剰余(先順位の抵当権者の債権の弁済によって後順位の抵当権者が得られる利益がない場合)であることが明らかであれば,抵当権実行の可能性がないものとして住宅資金特別条項を定めることが認められる可能性があります。

2 住宅資金貸付債権を有する再生債権者が,住宅資金貸付債権を代位弁済によって取得した場合(民事再生法198条1項)

 例えば,住宅ローンを支払えなくなった債務者の代わりに,保証人となっている家族がそれを一括弁済し,債務者に対して求償権を有しているような場合,代位弁済者に思い経済的負担を与えることになってしまうため,この制度の適用はありません。

3 保証会社が住宅資金貸付債権の保証債務を履行した場合で,その履行日から6か月間が経過した後に民事再生手続開始の申立てがされた場合(民事再生法198条2項)

 住宅資金貸付債権について,保証会社が保証債務の履行として代位弁済をした後,住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると,保証債務の履行はなかったものとして,保証会社は元の債権者からすでに支払った金銭の返還を受け,住宅資金貸付債権は元の債権者に戻ります。

 しかし,履行日からあまりに長期間経過後にこのような法律関係が生じると,当事者の取引の安定を著しく損ねることになってしまうため,6か月という期間制限が付されています。

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