Q 相続の放棄が必要な人はどんな人ですか?
A 相続される財産には,不動産や金銭などのプラスの財産の他,借金などのマイナスの財産が含まれます。そのため,プラスの財産とマイナスの財産を比較して,マイナスの財産が多い場合には,相続の放棄をすべきです。相続を放棄することで,プラスの財産を相続できなくなりますが,マイナスの財産を相続してその支払い義務を課される心配がなくなります。
Q 相続の放棄はいつまでにすればいいのですか?
A 相続の放棄は,原則として,自分が相続人となったことを知った時から3か月以内にする必要があります(民法915条1項本文)。
Q 相続放棄のための期間を延長することはできますか?
A 相続放棄のための期間のことを,一般的に「熟慮期間」と呼びます。この熟慮期間は,家庭裁判所への請求によって,伸長することができます(民法915条1項但書)。
Q 相続の放棄はどうやってすればいいのですか?
A 相続の放棄は,亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し,相続放棄の申述書を提出する方法で行います。添付書類として,亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本や,相続の放棄をする方の戸籍謄本などが必要となります。亡くなった方が遠方で出生したり,引越しを繰り返している場合,複数の役場に対して戸籍の取寄せをしなければなりません。詳しくは,裁判所による手続説明サイトをご参照下さい。相続の放棄は,弁護士に依頼するまでもなく,ご自身で行うことが可能です。
Q 相続の放棄ができない場合がありますか?
A 法律上,次のような行為があると,相続を承認したとみなされてしまいます(民法921条)。相続の放棄を考えている方は,次のような行為をしないよう注意する必要があります。
① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
② 相続人が民法915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。③ 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
Q 民法921条の「処分したとき」とはどのような場合ですか?
A 法律上,相続を承認したとみなされてしまう行為の一つに,相続財産の処分行為があります。「処分」とは,権利者でなければ許されない,財産の性質上の変更や権利の変動を伴う行為のことです。具体的には,亡くなった方が所有していた自動車の売却,自宅の取り壊し,借金の返済などが挙げられます。他方,相続人を受取人として指定した生命保険金の受領,相続人の支出による債務の返済,自宅の修繕などの行為は「処分」とはいえないと考えられています。その他,特殊な事例について疑問がある方は,ご自身で判断せず,弁護士にご相談ください。
Q 未収年金を受領することは民法921条の「処分したとき」に該当しますか?
A 「国民年金法に基づく年金の受給資格者が,国に対して未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に死亡した場合,同訴訟は当然に終了して同法19条1項所定の遺族がこれを承継するものではない」と判断した判例(平成7年11月7日/最高裁判所第三小法廷)において,障害福祉年金及び老齢年金が国民年金法19条1項の規定に基づき,相続財産に含まれない旨の判示をしています。
そのため,同法19条1項の規定に基づき,相続人の名前で請求できる未支給年金については,それを受領したとしても法定単純承認事由には該当しないと考えることができます。
Q 被相続人の預金から葬儀費用を支出することは民法921条の「処分したとき」に該当しますか?
A 大阪高判平成14年7月3日家月55巻1号82頁は,「夫ないし父親が死亡した場合に,仏壇や墓石を購入することは我が国の通常の慣例であり,被相続人の財産が残され,かつ,相続債務があることが分からないときには,遺族がこれを利用することも自然な行為であるから,相続人らが被相続人の預貯金を解約し,その一部を仏壇及び墓石の購入費用に充てた行為が,明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」に当たるとは断定できない」と判断した裁判例があります。
もっとも,この裁判例は,法律の一般的な解釈について判断したものではなく,個別具体的な事情の下において法律を解釈したものなので,これを一般論として受け止めてよいかどうかは迷うところです。例えば,この裁判例とは異なり,相続債務があることを知りながら被相続人の預貯金を解約して葬儀費用に充当した場合,この裁判例と同様の解釈ができるのかは疑問があります。また,葬儀や仏壇などに対する社会的な評価は時代の変化とともに大きく変わります。
そのため,相続放棄について疑義が生じる可能性を少しでも低減させるためには,可能な限り被相続人の預貯金を葬儀費用に充当するのは避けた方が良いと考えます。
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